山口経済レポート連載記事 – ページ 7

  • HOME
  • 山口経済レポート連載記事 – ページ 7

山口経済レポート

院長が2013年から山口経済レポート(http://www.ykr.co.jp/index.html)に毎月掲載している過去のコラムを掲載しています。腰痛を中心に様々な整形外科の疾患や情報を発信していますので順次アップしていきます。

腰痛の原因の中でも比較的多い高齢者の骨粗鬆症(による脊椎骨折)についてのお話です。以前は骨粗鬆症の危険因子の一つにやせすぎや急激な体重減少(無理なダイエットなども含む)があり、やせすぎをチェックする指標として広くBMI(Body mass index)が普及しています。これは体重[kg]÷(身長[m]×身長[m])で計算され、BMI18.5未満がやせすぎで、骨粗鬆症のリスクが高いと言われていましたが、さらに今回紹介するのは、閉経後の女性に関して年齢と体重で骨粗鬆症の危険度がわかる評価法で、それがFOSTA(Female Osteoporosis Self Assessment Tool for Asia)です。(体重(kg)-年齢(歳))×0.2での結果より、マイナス4未満:危険度が高い、マイナス4~マイナス1未満:危険度が中等度、マイナス1未満:危険度が低い という判定がでますので、是非利用してみてください。ここで危険度が中等度以上であれば、骨密度の測定をお勧めします。骨密度の測定には超音波(踵で測ります)、X線写真(MD法という両手で測ります)、二重光線エネルギーX線検査装置(略してDEXAといい、前腕、脊椎、大腿骨頚部)などがありますが、やはり一番データがしっかりしているのはDEXAの脊椎,股関節の骨密度です。調べた値がYAM(young adult mean)若い時のピークの骨密度)の80%異常であれば正常、70%以上80%未満であれば骨量減少、70%未満であれば骨粗鬆症と定義され治療が推奨されますが、骨量減少の患者さんは骨粗鬆症治療は慎重に経過観察だったのですが、こちらも近年では(骨粗鬆症による)骨折の既往、両親の大腿骨頚部骨折の既往、関節リウマチ、ステロイド治療歴、現在の喫煙、一日1.5合以上のアルコール摂取などがある場合は積極的に治療を開始することが推奨されています。

一方、今後10年で(骨粗鬆症性)骨折をおこす危険性がわかる診断ツールがFRAX(fracture risk assessment tool)です。WHOが開発し、各国語に翻訳されている画期的な骨折のリスク評価法です。年齢、性別、身長,体重、骨折歴、両親の大腿骨近位部骨折歴、現在の喫煙の有無、ステロイド服用の有無、関節リウマチの有無、I型糖尿病、甲状腺機能亢進症、45歳未満の早期閉経など骨粗しょう症を招く病気の有無、ビール換算で毎日コップ3杯以上のアルコールを飲酒するかどうか、大腿骨頸部の骨密度を入力すると今後10年間で脊椎骨折と大腿骨頚部骨折の発生頻度が判明します。DEXAで骨量減少にあてはまり、FRAXが15%以上であれば骨粗鬆症治療を開始すべきであると我が国の骨粗鬆症ガイドラインでも推奨しています。骨密度を測らなくてもFRAXの計算は可能ですのでこちらはHP(http://www.shef.ac.uk/FRAX/tool.aspx?country=3)からアクセスできます。

最近少しづつ認知されてきたこの言葉ですが、どのくらいの方がご存知でしょうか?

2014.3.23 山口県健康づくりセンターで開催された健康づくり県民公開講座 学んで笑って健康づくり講座 で私が講演をしましたが、800名収容の会場は満席に近く、ロコモへの関心をうかがい知りましたので、その講演内容をお伝えすることで、ロコモについて知って頂ければ幸いです。

〜自分の足で一生 歩いていくために〜 さあ、はじめよう ロコモティブシンドローム予防

日本整形外科学会によるインターネット調査ではロコモの認知度は平成24年度で 17.3%、平成25年度で26.6%であり、厚労省や日本整形外科学会は平成34年度までに80%の認知度を目指しています。会場でもロコモの認知度は3割程度でした。ロコモとはロコモティブシンドローム(運動器症候群)の略で、主に加齢による運動器の障害のため、移動能力の低下をきたして、要介護になっていたり、要介護になる危険の高い状態のことをいいます。先進国の高齢社会(65才以上の割合が7%以上)から高齢化社会(14%)になるのにフランスでは115年、イギリスでは47年かかったのに日本では24年であり他に類を見ない速さです。ちなみに山口県での65才以上の高齢者は41万8000人で全国5位で,100才以上は624人です。要介護者はH24には500万人を超えるとされ、一方でロコモ予備軍もネット調査で4700万人と推測されており、メタボとメタボ予備軍をあわせた1980万人を凌駕する数です。

運動器症候群の運動器とは身体活動を担う筋・骨格・神経系の総称であり、筋肉、腱、靭帯、骨、関節、神経などの身体運動に関わるいろいろな組織・器官のことです。呼吸器、循環器、消化器といった内蔵を支えるいわば車のエンジンやタイヤの役割に相当します。運動器の障害は生命の危険に至ることが 少なく、関心は高くなかった運動器に痛みや支障が発生してから、その大切さに気づくのが実状であり、自己の『自立と尊厳を支えている』のが運動器なのです。厚労省国民生活基礎調査 では全国民の有訴のうち、男女とも腰痛と肩凝りが最も多く、次いで関節痛です。皆さんは要支援・要介護状態の要因の第1位は転倒・骨折、関節疾患による「運動器の障害」だということをご存知ですか?

ここでロコモの原因となる3大疾病は腰部脊柱管窄症、変形性膝関節症、骨粗鬆症による骨脆弱性骨折です。健康な状態から要支援、要介護に至るまで,移動能力はひそかに衰えていきます。運動習慣のない生活ややせ過ぎ,肥満も運動器の障害の原因となり、運動器の痛みを放置しておくと重篤化しますので、ロコモをほっておくと・・・気づいたときにはもう要介護という状態になっている可能性があります。私も実は変形性膝関節症になっています。

では、ロコモの予防法はないのでしょうか?それがロコトレです。その前にまずはロコモの診断をする必要があります。

1)片脚立ちで靴下がはけない
2)家の中でつまずいたり滑ったりする
3)階段を上るのに手すりが必要である
4)横断歩道を青信号で渡りきれない
5)15分くらい続けて歩けない
6)2kg程度の買い物(1リットルの牛乳パック2個程度)をして持ち帰るのが困難である
7)家の中のやや重い仕事(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど)が困難である

上記の7つの項目のうちひとつでも当てはまればロコモが疑われます。 ロコトレの意義は運動器障害がある人もそのレベルに応じてでき、、自分でできる、自宅でもできる、特別な器具を必要としないことが特徴です。 トレーニングする前に姿勢とお腹に力を入れることを意識しましょう!(腹横筋を意識するにへそのした丹田を押さえたり、肛門を締めるのも効果があります)

ロコトレ1は片脚立ちです。ダイナミックフラミンゴ療法ともいいます 1分間片足立ち3セット行います。机や平行棒につかまりながら行ってください。股関節を持ち上げる腸腰筋、その他大腿四頭筋、腰背筋を意識します 転倒予防にも有効です。あまり前屈みにならないよう注意しましょう。

ロコトレ2 スクワットです。肩幅より足幅を広めにとりつま先は30度ひらいてゆっくり5~6回1日3セット股関節、膝、足関節を連動しておしりをひくように体をしずめます。

その他カーフレイズ(つま先立ち)、フロントランジ(片脚を一歩前に出して腰を深く下げる)もあります。 ロコモの予防・対策6か条として

1.まずは姿勢を見直す!
2.小まめにからだを動かす!
3.小さな痛みも見逃さない!
4.食事はからだ作りの基本!
5.ストレッチはゆっくりと!
6.スポーツ量は加減も大切!

があげられますので、無理しないレベルから始められるとよいでしょう。 ロコモ,ロコモ予備軍の方、ロコトレ,いつから始めますか、やるなら・・・今でしょ!! ご清聴ありがとうございました。

-骨粗鬆症リエゾサービス-

高齢者の腰痛の原因として頻度の高い骨粗鬆症性脊椎骨折ですが、今回は骨粗鬆症性骨折の中で大腿骨近位部骨折の話をします。大腿骨近位部骨折は手術しないと寝たきりの原因になる最たる疾患ですが、わが国の大腿骨近位部骨折の患者数は1987年に年間約5万3,200人でしたが、2007年には約14万8,100人となり2.8倍に達しました。また一度大腿骨近位部を骨折した患者さんが再び同じ部位を骨折する危険性は平均で4倍にもなります。近年欧米では骨粗鬆症治療薬の普及により大腿骨近位部骨折が減少傾向にあるのですが、残念ながら先進国の中で日本だけは減少せず増加傾向にあります。これは骨折入院後の骨粗鬆症治療継続率が19%しかないということが原因といえます。年齢とともに骨粗鬆症性骨折が加速度的に増えて一度受傷すると再受傷をおこしやすいことを、骨折のドミノ倒しといいますが、これを防止するために考えられたのが医療連携によって防ぐ、という考え方で、骨粗鬆症リエゾンサービスといいます。これは1990年代後半に英国で生まれたシステムで大腿骨近位部骨折患者の包括的なケアを行う仕組みとしてスタートしました。病院の整形外科で入院治療になった場合でも、開業医による外来治療に移行した場合でも、病院医師や開業医と情報を交換・共有し、薬物治療、転倒リスクの評価、運動や生活習慣の改善プログラムの提示など、次の骨折を防ぐ対策につなげることに貢献しました。

日本でも骨粗鬆症学会を中心に骨粗鬆症リエゾンサービスが昨年から始まり、 第1回のリエゾンマネージャーの試験が10月に開催されます。看護師、理学療法士、薬剤師などが受験対象になりますが、このような取り組みにより骨粗鬆症治療の継続につながり、大腿骨近位部骨折のみでなく脊椎骨折なども含めた骨折予防、腰痛発症の軽減につながると信じています。

-その3ストレスと腰痛-

私達は日常で様々な心理社会的なストレスにさらされており、過度なストレスが心身に影響を与え、精神的な病気のみでなく、内蔵の病気(胃・十二指腸潰瘍や自律神経失調症—交感神経と副交感神経のバランスが崩れ交感神経有意になること)も生じる一方で、身体の不調を来たします。ストレス解消として暴飲暴食、喫煙、生活習慣の乱れ,運動不足による肥満から生活習慣病を発症、増悪するといった悪循環を形成します。その中でも腰痛はストレスと密接な関係があり、急性腰痛が慢性化する原因としても注目されています。

急性腰痛の恐怖体験も、腰痛が繰り返すのではないかという恐怖回避思考を生じ、不活動になることで運動不足を生じ、腰痛を長期化、重症化させます。腰痛の原因がはっきりせず、鎮痛薬の効果がなく、腰痛以外の症状(肩こり、不眠、動悸、気分不良など)も合併する場合、痛み部位や痛み方、痛みの程度が変化したり、痛む動作、姿勢の影響がない場合、痛みが長期化、慢性化している場合にはストレスの関与を疑います。腰痛のストレスには社会的な要因として、職場環境では職場の人間関係、労働時間、収入に対する不満、家庭環境では、家族内の人間関係(夫婦、嫁姑、子供)、子育て、受験、幼児期の虐待などがあります。このようなストレスは皆、抱えているとお思いでしょうが、実はその捉え方は性格が大いに関与し、完全主義,頑張りすぎや悲観的、自意識過剰、短気、頑固な性格,痛みに対するこだわり(痛みを完全にとりたいということに執着すること)は負の影響を及ぼします。

また医療機関によって異なる説明、治療が行われたことに対する不信感、医療者が発した言葉が誘因となる場合もあり、私達医療者側も心して対応することを必要があります。ストレス性腰痛の診断には問診が最も重要で、通常よりも時間をかけ、腰痛の特長のみでなく、他の随伴症状や既往歴、家庭職場環境についても問診の回数を重ねながら原因を追及します。その中で医師と患者との信頼関係をいかに構築するかも重要で、患者さんと一緒に腰痛の原因を探り,ともに治療して行く姿勢で治療に臨んでいます。ストレスの原因が判明すれば,第3者(職場の同僚、上司、家族)と協力して問題を解決を探りますが、実際には解決困難なことも多いため、投薬(抗うつ薬、抗不安薬)を併用しながらストレスを解消する方法(運動、娯楽、休息、休眠、食事、旅行など)を探ります。精神神経専門医に紹介して一緒に治療する場合もあります。整形外科医としてはやはり運動には積極的に関与しますが、慢性腰痛におすすめの運動は、今のところはウォーキングなどの軽めの運動で体を動かすことを継続することが科学的にも勧められています。

慢性腰痛に科学的根拠の高い治療で認知行動療法があり、痛みに対する間違った思い込みをしている場合にその考え方が間違っていることに気づかせ、行動を変えて行く方法ですが、現時点では整形外科、精神・神経科、理学療法士、看護師などのチーム医療が必要であり、専門の医療機関でしか行われていないのが現状です。

-その2身体表現性障害—疼痛性障害と身体化障害-

心因性腰痛とは心理社会的名要因が原因として生じる腰痛で、疼痛性障害と身体化障害が代表的疾患です。疼痛性障害とは痛みにみあうだけの解剖学的病変が見いだされない痛みで、過度な痛みを訴えます。

身体化障害とは身体疾患を模倣する疾患、医学的に説明不能な身体症状と定義され、転換ヒステリー、ヒステリー性麻痺とも言われています。

具体例としては、疼痛性障害は頻回の脊椎手術がされている患者さん(多数回腰椎手術例:multiple operative backといいます)で腰椎椎間板ヘルニアで初回手術をしたにも関わらず、足のしびれ,痛みがとれないことで再度手術を受け、よくなればいいのですが、あるいはいったんよくなってもすぐに痛みが再燃する場合が(まれに)あります。この場合、手術した医師は徹底的に検査を行い痛みの再燃した原因を調べて、ヘルニアの再発や取り残し、ヘルニア以外の原因(腰部脊柱管狭窄などの関与)を追究して薬物治療、ブロック注射などでなんとか患者さんの痛みを取り除こうとします。しかしながらいったんよくなっても再発を繰り返す場合には医師と患者の双方でよく相談して再手術(後方から手術を数回された後に最後の手術として前方固定術)を行うことがあり、逆によくならない場合(手術した医師との信頼関係が損なわれた場合)にはドクターショッピングを繰り返すこともあります。このような場合の治療として、患者さんの訴えを傾聴し、痛みに対する行動の変容を変える(痛みの認識を変える)ことによって、痛みに対する受け身的、無気力的な見方を客観的、能動的に変えることで患者さん自身の苦痛が軽減されることがあります。認知行動療法がまさにその代表的な治療になりますが、整形外科のみならず精神神経科、ペインクリニック、看護師、理学療法士、などがチーム医療で行う環境が必要になります。

腰痛を伴う身体化障害は非常に診断と治療が専門的になります。急に下肢全体に力が入らなくなり歩けなくなって救急車で搬送され入院されるケースや歩けるが足関節だけ力が入らないので外来で通院するケースなどあり、神経所見が画像所見と一致しなかったり、MRI検査など行っても明らかな原因がないことが多いです。確定診断は経頭蓋磁気刺激によって麻痺があっても神経伝導路が正常であることを証明する必要が(厳密には)あります。さらに特徴的なことは患者さんに重症感がなく、家族も呼んで話を聞くと家族背景が複雑(離婚、確執)であったり、家族の理解が得られないケースもあるのでこのようなケースほど治療が長期化したりします。家族の協力が必要なケースが多く、干渉しすぎない方がいい場合もあり、こちらの場合も整形外科があくまでも主治医となり、精神神経科とコンタクトをとりながら症状の改善を温かく見守ることでよくなっていくことも経験しました。

-その1腰痛の原因に関する考え方に変革をもたらしたメディアの力-

腰痛の原因を腰の解剖学的破綻の原因を追求する考え方から、心理的社会的側面から捉えようとする考え方にシフトしてきた、と以前述べました。心理的要素が腰痛の原因になることを広く世間に知らしめたのが、推理作家夏樹静子さんの2003年に出版された「腰痛放浪記 椅子がこわい」(新潮文庫)です。この本は、現山口大学整形外科田口敏彦教授から読むように勧められましたが、今や私のバイブルのような存在で、外来で心理的側面の強い腰痛患者さんには読んでいただくよう勧めることもあります。3年間にわたる凄まじい腰痛体験が、受診された様々な医療機関等でのやりとりとともに赤裸々に綴られており、医療者目線ではなく、正に今、腰痛に苦しんでいる患者目線での医師とのやりとりから反面教師として反省すべきだったり、学ぶ点が多々ありました。

また一方で研究面においては21世紀の医学の中心課題は脳の科学、情動の科学的解明と言われていますが、このことを知らしめたのが2011年11月放送のためしてガッテン「驚異の回復!腰の痛み」でした。福島県立医科大学が原因不明の腰痛患者の脳血流量をMRIで調べたところ、
健康な人に比べて血流量、つまり脳の働きが7割の腰痛患者で低下しており、さらなる研究結果より慢性的なストレスを受けると、脳の中の側坐核の働きが低下して、痛みがおさえられず、より痛いと感じてしまうというということがわかってきて、痛みの悪循環を断ち切るためには運動、趣味など自分の好きなことを積極的に生活に取り入れることが効果的である、という内容でしたが、この放送やその後の新聞などでの報道を見た患者さんが、自分の腰痛をストレスが原因と考えることができるようになったことは、近年の腰痛患者さんの治療をする側にとっても非常に大きな福音でありました。しかしながら、腰痛の原因がストレスである、という理論が一人歩きして、治療者側も画像診断で異常がない腰痛患者さんを安易にストレスが原因と決めつけてしまう恐れも危惧されました。これから実際に心理的側面が腰痛に及ぼす具体例について取り上げていきます。

-その6内臓性腰痛について-

前回までで特異的腰痛の中でも代表的な,骨折・腫瘍・感染について述べましたが、その他の内臓性腰痛について解説します。

比較的頻度が高いのが腎結石,尿管結石に伴う腰痛です。この時の腰痛は片側性で安静にしてもよくならす、通常の腰痛の部位よりも上の方に痛みを訴えることが多く、腎臓,尿管にそって叩いたときに痛みを伴うノッキングペインが特徴的所見です。尿検査で血尿があれば診断が確定できます。(肉眼的には血が混じっていないことも多いです)当院にも急性腰痛で受診された患者さんで検尿で潜血があり、体動困難のため救急車で総合病院に搬送したことばありました。

次に子宮由来の腰痛で、子宮内膜症と子宮筋腫が代表的です。子宮内膜症は20代から30代の女性に発症する月経障害で、子宮内膜の細胞が本来あってはならない場所に組織を作ってしまい、その血液が排出されずに、同じ位置に溜まってしまうため腰痛を引き起こします。月経量と生理期間が大幅に変わることもあるので注意が必要です。また子宮筋腫は子宮の筋肉が変化してできる良性の腫瘍で瘍が大型化することによって起こる月経量の増加、血の塊が混ざるなどの症状がでて、生理痛がひどくなる一連の症状の一つとして腰痛が生じることがあります。私が以前経験したのは子宮筋腫が大きくなり骨盤腔内神経根を圧迫して椎間板ヘルニア等による神経症状と同一の症状で、腰椎MRIを撮像して異常が見つからないため、念のため骨盤内のMRIを撮像したところ巨大な子宮筋腫が骨盤内を占めていました。婦人科で手術を受け,術前あった神経根症を伴う腰痛も消失しました。

最後に腹部大動脈瘤に伴う腰痛です。”死に至る腰痛があったとは!?”という特集が、昨年の「ためしてガッテン」で取り上げられましたが、年間に1万人以上が、亡くなっており、『腹部大動脈解離』、『腹部大動脈瘤』の二つの病気があります。腰椎(背骨)の前を縦に走る太い動脈が、腹部大動脈で、その血管内に裂け目ができて内部で大きく剥がれてしまう状態が「解離」、一部が大きく膨らんでコブのようになるのが「瘤」で、破裂寸前や炎症を起こした場合に痛みを感じ、横になって安静にしても痛みが変わらない腰痛が特長です。動脈瘤が大きくなると腹部中央に動脈の拍動を触れる場合もあります。いったん動脈瘤が破裂した時の腰痛は非常に激痛でショック症状を伴っていることも多く,救急車で搬送されることが多く、半数が死亡し、緊急手術による救命率は40−60%という非常に恐い疾患です。腹部大動脈瘤は事前に腹部エコーやCT、X線写真で発見される場合もあり、大きさ(直径)が5cm以上で手術適応と言われおり、事前に発見された場合には、血管外科などの専門医に相談する必要があります。

代表的疾患とその診断と治療-その5感染性脊椎炎について-

見逃してはならない疾患の代表的なもので脊椎腫瘍と双璧をなす疾患です。 感染性脊椎炎とは感染によって生じる脊椎、椎間板炎の総称で、感染源となるのは細菌が最も多いのですが、結核菌(脊椎カリエスといいます)や真菌も少数ながらあります。

また最近では高齢者の罹患例が多く、糖尿病や腎透析など抵抗力や免疫力の低下した患者さんが罹患する場合、MRSA菌など難治性の例も増加しています。原因としては血行感染が多いのですが原因がはっきりしない場合もあり、早期診断、早期治療が最も重要です。早期診断のためには腰痛に先行する発熱(微熱の場合も多く、痛み止めが処方されていると熱が出ないケースもあります)があれば積極的に感染を疑い,血液検査で白血球、CRPという炎症反応を調べて白血球、CRPが高いの場合は感染を疑います。私が経験したケースでは抗がん剤の治療後、腹部,頚部手術後、点滴のカテーテルより血行性に感染した場合もあり、他科での治療中・治療後に発熱を伴う頑固な腰痛、頚部痛(進行した場合は上下肢麻痺例もあり)も積極的に疑う必要があります。X線、CT検査では初診時異常がない場合もあります。これは感染の初期は骨破壊がない場合が多く、1ヶ月以上経過しないと変化がでないこともあり、MRIが最も有用性が高いです。MRIでは椎体をはさんで、椎間板に信号変化があり,周囲に膿瘍(腸腰筋膿瘍)を作る場合もあります。診断の確定のためには椎間板、椎体穿刺による菌の同定検査が必要で、できれば抗生剤を使用する前の検査が望ましいとされます。治療は抗生剤とベッド上安静の保存的治療が原則です。菌の同定が判明するまでは、できるだけ広域な抗生剤を使用し、菌の同定後はその菌により治りやすい(感受性が高い)抗生剤に変更します。私の経験でも細菌感染として治療していて、菌の同定で真菌が検出され,抗真菌剤に変更したり、結核菌が出て急いで変更したことはありますので、いかに早期に診断するかがおわかりかと思います。最近では高齢者が多くなり,長期安静臥床を行うと廃用性筋萎縮を生じ、脊椎炎がよくなっても、治った頃には下肢筋力が低下して歩けなくなったりすることがないように、早期積極的治療を行うこともあります。

しかしながら侵襲の大きい手術は患者さんの負担も大きいので、局所麻酔で椎体、椎間板の生検と同時に行う経皮的病巣掻爬術も行われます。これは局所麻酔で椎間板内組織を切除、洗浄し、術後もドレーンをしばらく留置して膿を出す方法で、これにより安静臥床期間を短縮することができます。大きな腸腰筋膿瘍が生じた場合にはCTガイド下にドレナージを行い,ドレーン留置して治療することもあります。さらに難治性の場合、麻痺が生じたり、骨破壊が大きい場合には、手術が行われることもあります。手術は前方掻爬、骨移植術(骨盤より自家骨移植)を行うことが多いのですが、早期離床ができないことから、最近では後方より金属を挿入して前方固定を行う場合もありますが、まだ一定の見解は得られていません。いったん感染が生じると長期間は長期(3ヶ月以上)になることが多いので、早期診断、早期の低侵襲治療が望ましいと考えます。

ワンポイントアドバイス 感染性脊椎炎の早期診断には血液検査、MRIが最も有用です。

代表的疾患とその診断と治療-その4悪性腫瘍について-

見逃してはならない疾患の代表的なものに脊椎腫瘍があります。 癌による死亡数30万人/年で死亡率1位ですが、この背景にはがん治療の進歩、生命予後延長による骨転移が急増した事実があり、年間10-25万人、全体で100万人超といわれており、がんの骨転移は決して稀な疾患ではないことを念頭に置いて診断にあたる必要があります。肺癌と乳癌が整形外科関与骨転移の半数を占め、第3位が前立腺癌で、そのうち脊椎転移の頻度は3-5割です。整形外科初診時原発不明癌の頻度は肺癌34%、多発性骨髄腫14%、前立腺癌12%、悪性リンパ腫9%、乳癌7%、腎癌・肝癌6%となっています(がん骨転移ハンドブックより)。この中で原発性癌は多発性骨髄腫と悪性リンパ腫になります。これは血液、またはリンパのがんでこの頻度は決して少なくなく、常に念頭に置いておく必要があります。

腰背部痛患者の骨転移早期診断のポイントとして癌(手術)の既往の有無、安静時痛、夜間痛、治療抵抗性、多彩な神経症状などがあります。原発巣検索のためには全身のCT撮像が有効で、骨シンチ撮像より最近ではPETに変わっていきますが、脊椎転移の早期診断にはX線よりMRIが最も有用です。癌骨転移の組織型による分類として溶骨型(骨が溶けるー輪郭がなくなる)、造骨型(骨が白くなる、代表的疾患として前立腺、乳癌)、腰骨型と贈骨型の混合型がありましたが、最近では骨梁間型(がん細胞が骨の構造の間を広がるタイプ)が3割を占め、X線、CTでも早期発見は困難で、MRIでないと早期発見は難しいといわれています。 (肺小細胞癌、肝癌、膵癌の転移が代表的です) 脊椎X線写真でがん転移の代表的な所見とされるふくろうの目サインは溶骨型の代表ですが、X線で診断されるのは進行期の所見ですので、55才以上でがんの既往のある方で安静時にも腰痛、背部痛があり、治療に抵抗する場合には脊椎のMRI撮像をお勧めしています

そこで早期発見できれば、次に原発巣の検索を行いますが、全身のCT検査や腫瘍マーカーで絞り込みますが、それでも不明の場合には骨生検を行います。これは入院が必要ですが、X線透視下かCTガイド下に骨生検針を局所麻酔で椎体後方から刺入し前方の椎体の組織を採取します。要する時間は(慣れた術者が行えば)数分で安全に行えますが,がんの種類によっては予想外の出血をすることもありますので最新の注意が必要です。採取した組織はホルマリンの中に入れて1週間ぐらいで病理専門医に診断していただきます。原発性・転移性脊椎腫瘍の治療は放射線治療、化学療法(抗がん剤など)、手術療法がありますが、がんの種類によってどの治療法が有効かを内科,外科の先生方と相談して(組み合わせて)治療しますが、手術的治療の適応は、余命が3−6ヶ月以上期待できること、進行性の麻痺の場合に緊急手術を行うこともあり、その場合には麻痺のある部位の後方部分を椎弓切除して脊髄の圧迫を介助することと,早期離床のためにインスツルメントという金属をその上下の脊椎に多数挿入します。近年金沢大学の冨田名誉教授の考案された脊椎全摘術(脊椎腫瘍を全周性に摘出する手術)により転移性腫瘍でも救命率,予後が向上しましたが、一般病院では困難であり、一層の普及が待たれる所です。県立総合医療センター時代には他院からの紹介患者さんや内科・外科の患者さんのガン転移を多数診断、治療させていただきましたが、その経験は開業してからも生きています。(整形外科を開業してからはがんの転移の患者さんに遭遇する機会は極端に減りましたがそれでも年に数例経験します)

ワンポイントアドバイス 脊椎転移の早期診断にはMRIが最も有用です。

代表的疾患とその診断と治療-その3骨粗鬆症性脊椎骨折について-

骨粗鬆症とは、骨からカルシウムが出て行く骨吸収が骨を作る骨形成より優位になり、骨折しやすい状態をいいますが、最近では骨強度の低下も関係していると言われています。実際に背骨がつぶれることを骨粗鬆症性脊椎骨折といいます。よく(脊椎)圧迫骨折と言われるのは厳密には神経の圧迫のないものであり、神経圧迫のあるものを含めた場合には脊椎骨折と言っています。脊椎骨折は年齢とともに骨粗鬆症の方が増えますので、高齢者の約40%に存在するといわれています。脊椎骨折の新規発生患者数は年間30万~100万人といわれています。しかも、脊椎骨折を生じた方が、再骨折する確率は2年以内で約40%といわれています。特徴的な症状は腰痛ですが、必ずしも折れた場所が痛いとは限らず腰やお尻の痛みを訴える場合が多いです。また痛みの特徴は寝返りや起きようとしたときに最も痛く、起きて座ってしまったらそうでもなく、歩いて外来を受診する場合が多いので高齢の腰痛患者さんが来られたら骨折を念頭において調べることが早期発見の第一歩です。

最初に外来受診をした方にいままで圧迫骨折したことのない方であればX線写真で1箇所だけつぶれていればわかる場合もありますが、初回のX線検査でつぶれていない場合や何回か骨折したことのある方の場合はどれが新しい骨折か、わからないこともあります。脊椎骨折の早期診断にはMRI検査が最も有用です。骨粗鬆症の診断には骨密度検査があり、手や手首のX線撮影、踵の超音波で測定する方法もありますが、当院ではDEXAという器械で腰と太もものつけね(大腿骨頚部)の骨密度を測り若いときの70%未満の場合骨粗鬆症と診断します。(最近では骨密度が正常でも骨質が弱い骨粗鬆症もあり、鉄筋コンクリートに例えると、鉄筋にあたるコラーゲンに善玉と悪玉架橋があることもわかってきました)

最新のガイドラインではFRAXという診断ツールを使うと今後10年で骨折をおこす危険性がわかるので骨密度が70−80%の骨量減少の場合でもFRAX(フラックス)で15%以上であれば積極的に治療を開始することが推奨されており、当院でもDEXA,FRAXを使って骨粗鬆症の早期診断、早期治療を行っています。 脊椎骨折の治療は、痛み止め、骨粗鬆症の治療(内服薬や注射薬があり、重症度に応じて使用します)を開始するとともに、骨折した部位に応じてコルセットを作成します。コルセットは数日から1週間で完成しますのでそれまで自宅で安静にしていただきますが、痛みが強く動きがとれない場合は入院できる病院に紹介しています。コルセットは骨折が癒合するまでの約2−3ヶ月装着します。骨がつかないと癒合不全、偽関節といって寝たときには骨がワニの口のように開き、動いた時の痛みがとれなかったり、神経を圧迫して足の麻痺がでることがあり、手術が必要になることがあるので、できるだけそうならないようにするために、早期発見、早期治療が必要なのです。骨粗鬆症の治療は途中で中止すると効果は数ヶ月で元に戻ってしまいますので,継続治療が必要です。当院では患者さんの骨粗鬆症の状態を定期的に検査しながら治療を継続するようにしています。いわば長距離レースのようなものです。新しい骨粗鬆症の治療薬として、テリパラチドという副甲状腺ホルモンの注射薬があります。今までの骨粗鬆症治療薬が骨吸収といって骨からカルシウムがでていくのを抑制する作用だったのですが、この注射薬は骨形成といって骨を形成することができるので骨密度を増加する作用も今までの薬より高いといえます。毎日患者さんが自分で注射する方法と1週間に1回外来で注射する方法があります。当院では骨粗鬆症の重症度に応じて、患者さんと相談しながら治療する薬を選択しています。さらに昨年からヒト型モノクローナル抗体であるデノスマブ(商品名:プラリア)は発売されました。破骨細胞の形成・機能・生存に重要な役割を果たす蛋白質を特異的に阻害し、破骨細胞の形成を抑制することで骨吸収を抑制するもので、6カ月に1回野注射で骨密度を上昇させる作用をもっており、期待されています。

このように骨粗鬆症治療薬の選択肢が広がることは良いことなので私たち治療者側もますます個々の患者さんの骨粗鬆症の状態を把握して使い分ける必要があることを肝に銘じて治療にあたらねばなりません。

脊椎骨折の手術適応については、2011年よりBKP(バルーンカイフォプラスティ)という椎体形成術が保険適応となり保存的治療を行っても疼痛が改善しない場合に限って適応をみとめられており、研修をした施設に限って行われています。つぶれた骨に背中から穴をあけてバルーンで内部を膨らませてその中に骨セメントを注入する方法です。疼痛の改善効果は高いのですが、合併症として肺塞栓、セメントで固めた骨の上下の骨折が生じやすいことがあり、適応は専門医により慎重にされています。椎体の圧潰が高度であったり、骨がつかなかったりして脊髄を圧迫し麻痺が生じた場合や骨折当初から不安定な骨折と診断された場合には椎弓根スクリューというインスツルメント(金属)を使用した後方固定術が行われ、骨折した骨内にはバイオペックスという骨ペーストや人工骨を充填して金属の周囲には骨移植が行います。このような手術は侵襲が比較的大きいので、できるだけ手術にならないような適切治療を行うよう心がけています。