山口経済レポート連載記事 – ページ 3

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山口経済レポート

院長が2013年から山口経済レポート(http://www.ykr.co.jp/index.html)に毎月掲載している過去のコラムを掲載しています。腰痛を中心に様々な整形外科の疾患や情報を発信していますので順次アップしていきます。

ラグビーワールドカップは終わってしまいましたが日本がベスト8まで残ったことは今後も歴史に刻まれると思いますが、4年後さらに上を目指すよう期待しています。さて、今回は脳震盪についてのお話です。脳振等とは頭部に外力が加わった結果生じる一過性の意識障害、記憶障害のことで、タックルされて倒れたときや、タックルして勢いよくぶつかったとき、後ろ向きに倒れるときなど頭を打たなくても、頭の動きが突然止まったり、急に方向が変わったりした際に頭皮頭蓋骨を通して脳に衝撃が伝わることで生じます。以前は倒れている選手がいると魔法のやかん(?)が出てきて水をかけると選手が立ち上がると観衆から拍手が湧き、選手もプレーを続行していましたが、現在では(平成24年から)選手生命を守るために、厳格な基準が定められています。頭痛、嘔気、起き上がるのに時間がかかると脳震盪の疑いありとされます。痙攣、意識消失、見当識障害(場所や時間がわからない)、ふらつき、無表情などは脳震盪とされ脳震盪疑いでも退場になります。退場した選手は精密検査後、段階的競技復帰のルールに従います。受傷後2週間は練習と試合を禁止し、その後症状がなければウォーキング、ランニング、パス練習と上げていき、医師の許可を得てコンタクトプレーが開始され、競技復帰には最短でも3週間を要します。精密検査(CT,MRI)で異常がない場合は脳震盪という診断になりますが、急性硬膜下血腫があれば意識障害や死亡につながるので緊急入院、手術が必要になる場合もあります。脳震盪を再度繰り返すとセカンドインパクト症候群といって致死率が50%を超えることが報告されているので専門医に相談することが重要です。

ラグビーワールドカップで日本の快進撃が続き盛り上がっている今日この頃ですが今回はラグビーでのスポーツ外傷、とりわけ重症度の高い頸髄損傷、脳震盪について2回に分けてお話しします。頸髄損傷は日本では水泳飛び込み、体操についでラグビーが多く発症しています。ラグビーではタックルやスクラムで頭から当たった際に頚椎に屈曲、回旋方向に強い力が加わると骨折や脱臼を生じて頸髄損傷を生じることがあります。スクラムでは1列目の左右のプロップ、2列目のフランカーに多く発症するそうですが、最近ではスクラムでの頸髄損傷は30%減少し、ラック(ボールを持って倒れたところにボールを奪い合う密集プレー)による頸髄損傷が若干増加しています。頸髄損傷は損傷する高位(頚椎の何番めが損傷されるか)で上下肢の麻痺のレベルが変わってきます。頸髄損傷を疑え(手足が動かない場合)ば、グランドに担架と頚椎固定装具で固定して救急車で病院に搬送されます。バイタルサイン(体温、血圧、脈拍、呼吸、意識)をチェック後、脊椎外科医による画像診断、神経学的診断ののち手術適応を決定し早期手術、早期リハビリテーションを行います。上位の損傷ほどより中枢から動かず、呼吸筋の麻痺が生じると人工呼吸器や気管切開といった処置も必要となります(呼吸器離脱は呼吸リハビリをおこなうことで可能ですができる施設は限られています)ので、ラグビー協会も予防に力を入れています。ラグビー選手の頚部周囲筋が太く逞しく頚部に重りをつけて鍛えるのは予防の一貫でもあります。特にタックルするときの頭の位置はヘッドアップしておくこと、頭と肩は腰よりも上にすること非常に重要です。ラックの際は顔面と胸を地面につけるChin in ポジションも危険回避には有用です。一旦麻痺が生じると回復する場合と回復しない場合がありますが特に急性期に肛門の感覚が残っていることは予後の指標とされます。肉体と肉体がぶつかり合う一種の格闘技ですが、英国発祥の紳士のスポーツと言われていますので、どんなに屈強な選手でも一歩間違えれば頸髄損傷の危険性と隣り合わせにあるということも知っておいていただければ幸いです。しかしながらラグビーの試合を安心して見ることができるのは一流の選手ほど基本がしっかりしており、鍛錬の賜物であるとも言えるので今後の試合もしっかり応援しましょう。

貧乏ゆすりは日本では行儀が悪い、とされていますが、海外ではジグリング(1970年ソルター:貧乏ゆすり様運動)と言われ、変形性股関節症の保存的治療として近年注目を集めています。ジグリングとは股関節と膝関節を自分で小刻みに動かす方法で、意識すれば止めることができる自動運動、随意運動に分類されます。やり方は簡単で椅子に浅めに腰掛け、股関節と膝関節を直角に曲げ、足趾の先を床につけて踵を浮かせて上下させ(片脚づつでも両脚でも可)ます。毎日30分以上、できるだけ早く上下させます。ジグリングの他の効果としてふくらはぎの筋肉を動かすことによる血液循環が改善するのでエコノミークラス症候群の予防効果もあります。最近では変形性膝関節症、ロコモーション症候群にも効果があるという報告もあります。その他変形性股関節症に効く体操として座位での膝の開閉運動、立位での骨盤を揺らす運動、腹筋、大腿四頭筋の筋トレなども有効とされますので、毎日テレビを見ながら、読書、食事しながら、少しづつ初めて見てはいかがでしょうか?

骨粗鬆症は女性がなるものだと言う誤解や自分は男性だから骨粗鬆症にならないんだと思っておられる方に知ってもらいたいので今回はこちらをテーマにしました。2015年骨粗鬆症予防と治療ガイドラインによると骨密度検査(DEXA)で腰椎、大腿骨頸部いずれかで骨粗鬆症と診断される患者数は1280万人(男性300万人、女性1280万人)であり、男性も4人に1人が骨粗鬆症であるとされています。女性は加齢と閉経後女性ホルモンが減少して生じることが多いのですが、男性は加齢と糖尿病、慢性閉塞性肺疾患、動脈硬化性疾患などの生活習慣病、慢性腎臓病、肝硬変、炎症性腸疾患などにより骨質が低下して生じることが多いとされます。最近の米での臨床研究でも35-50才の骨密度検査で骨量減少・骨粗鬆症が男性の34%に認め、運動量と負の相関が確認されたそうです。中高年男性は特に運動不足が骨粗鬆症と関係することは生活習慣病による二次的な骨粗鬆症が多いことを裏付ける結果であると考えます。また、男性の方が骨粗鬆症による骨折が死亡リスクの上昇や生活への支障度が女性より深刻であり、骨折後に寝たきりになったり死亡する割合が高いので、不安に思われた方は骨粗鬆症検診も山口県で行なっていますのでそちらを利用したり、整形外科にご相談ください。予防としては中高年からの適度な運動(先ずはウォーキングからがお勧めです)と食生活の改善(暴飲暴食、糖分・塩分を控える)を積み重ねていくことです。

2019年5月に日本整形外科学会と日本腰痛学会の監修で腰痛診療ガイドライン2019改訂版が発刊されました。これは2012年に発刊された腰痛診療ガイドラインから7年ぶりの改訂となります。以前のガイドラインが出た時、マスコミにも大きく取り上げられたのが腰痛の原因の75パーセントは原因不明(非特異的腰痛)であるという海外の論文を取り上げ、それがガイドラインでも取り上げられたことです。この論文は実は整形外科医ではない家庭医の診断であり、それに反論する論文として山口県で行われた腰痛スタディも紹介されています。改訂版では腰痛の病態には、腰椎から脳に至るあらゆる部位で様々な病態が関与しており、非特異的腰痛は未確立の疾患群を詰め込んだ症候群であり未だ検討の余地が残るとされています。また腰痛の原因として脊椎由来、神経由来、内臓由来、血管由来、心因性、その他に分類され、特に悪性腫瘍(原発性腫瘍や癌の転移など)、感染(化膿性脊椎炎や結核性脊椎炎など)、骨折(骨粗鬆症性など)、重篤な神経症状を伴う腰椎疾患(腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症などの神経麻痺など)を鑑別する必要があることも記載されています。また薬物療法に関しても2012年以降に出た薬物も含めて検討されており、急性腰痛(発症から1ヶ月以内の腰痛)、慢性腰痛(3ヶ月以上経過した腰痛)、坐骨神経痛(下肢痛を伴う腰痛)に関して推奨される薬剤とエビデンスの強さを記載されています。急性腰痛に関しては非ステロイド性消炎鎮痛剤、アセトアミノフェン、弱オピオイドが、慢性腰痛ではセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤、弱オピオイドが、坐骨神経痛には非ステロイド性消炎鎮痛剤、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤、プレガバリンが推奨度が上位でした。注意すべき点として、診療ガイドラインとは、科学的根拠に基づき、系統的な手法により作成された推奨を含む文章で、あくまでも患者と医療者を支援する目的で作成されていますので必ずしもこうあるべきだ、ということではありません。臨床現場における治療の意思決定の際に、判断材料の一つとして利用し、このガイドラインに示されるのは一般的な診療方法であるため、必ずしも個々の患者の状況に当てはまるとは限らないことが明記されていますので私たち医師は個々の患者さんの状態に応じて治療を決定していくことになります。

前回のお話の続きですが、脊椎、仙腸関節炎または末梢関節炎を伴う非リウマチ性疾患である脊椎関節炎は強直性脊椎炎に代表され、血性反応陰性脊椎関節症とも言われてきました。その後の研究でHLA-B27遺伝子が関与する関節、皮膚、眼、腸管に及ぶ全身性疾患であることがわかってきました。最近では国際脊椎関節炎評価学会の基準では体軸性脊椎関節炎に分類されます。

ドイツでは成人の1%に発症し、関節リウマチと同程度とされていますが日本では0.02-0.03%と少なく、男女比は3−4:1で男性に多く、90%以上が40才以前に発症します。仙腸関節に炎症性サイトカインが産生され、膠原病(関節リウマチなど)のような自己免疫疾患ではなく自然免疫の関与が想定されています。強直性脊椎炎、乾癬性関節炎、反応性関節炎、炎症性腸疾患関連関節炎、急性前部ぶどう膜炎、若年性脊椎関節炎、分類不能・診断未確定脊椎関節炎に分類されています。症状は3カ月以上持続する炎症性腰背部痛で消炎鎮痛剤が有効です。また腰殿部痛の原因として脊椎炎、仙腸関節炎があり疼痛寛解を繰り返し、可動域制限が進行すると前傾姿勢となります。関節靭帯の付着部炎(特に踵)、片側末梢の関節炎も認められます。乾癬性関節炎は乾癬という皮膚疾患に伴う脊椎関節炎です。反応性関節炎は関節以外の部位の細菌感染症後に生じる関節炎で以前はライター症候群と言われ尿道炎、結膜炎、関節炎の症状を伴います。掌蹠膿疱症性骨関節炎は整形外科を受診される患者さんが比較的多く、胸骨肋骨鎖骨肥厚症という鎖骨の近位部が腫れて肩挙上時痛を伴います。線維筋痛症、強直性脊椎骨増殖症、リウマチ性多発筋痛症などは別の疾患です。

45才未満で3ヶ月以上持続する腰背部痛は体軸性脊椎関節炎を疑い、腰背部痛は無く、関節炎、付着部炎、指趾炎のみ持続する場合は末梢脊椎関節炎を疑うので専門医の受診をお勧めします。

腰痛の原因としては比較的まれですが最近私も経験しましたので解説します。

炎症性腸疾患関連関節炎とは脊椎関節炎の中の1つの疾患です。脊椎関節炎とは脊椎、仙腸関節炎または末梢関節炎を伴う非リウマチ性疾患です。1800年代には強直性脊椎炎と言われていましたが、研究が進むにつれて脊椎関節炎と言われています。血液検査では炎症反応は上昇しますがリウマチ因子などの抗体検査は陰性であることが多く、1970年代には血性反応陰性脊椎関節症と言われていました。炎症性腸疾患関連関節炎はクローン病(口腔から肛門まで主として小腸を中心とした炎症)と潰瘍性大腸炎(大腸のみ炎症)という腹痛、下痢、血便、体重減少を特徴とする原因不明の炎症性腸疾患に伴う脊椎関節炎で1020%に認められます。若い20代前後の男性に多く四肢関節炎や仙腸関節炎が非対称性で強直性脊椎炎に特徴的な竹様脊柱(バンブースパイン)も稀です。脊椎炎、仙腸関節炎を伴う患者の約50%HLA-B27という遺伝子が陽性になります。(ただしこの検査は保険適応ではなく自費になります)症状は緩徐に発症する安静時腰痛で運動で改善します。腰の前屈や後屈ができにくくなります。治療としたは消炎鎮痛剤が有効ですが、炎症性腸疾患を増悪させる可能性があるので長期使用は望ましくなく、抗リウマチ薬であるサラゾピリンやステロイド薬を使用する場合が多いです。生物学的製剤を使用する場合もあります。(保険適応あり)当院にも20代男性で潰瘍性大腸炎で治療中の患者さんで腰痛で来院されX線初見では異常なく、投薬、運動療法で改善しないためMRI撮像して仙腸関節炎が判明したので診断がつきましたが、この疾患の存在を念頭におくことを痛感しました。次回は脊椎関節炎の分類について紹介します。

骨粗鬆症の原因としてビタミンDの不足が問題となっています。特に日本人はビタミンD不足が多いとされていますが、最近このビタミンDを計測することが保険で認められましたので注目されるようになりました(正確には血清25水酸化ビタミンD)。ビタミンDには歯と骨の発育促進と小腸でのカルシウム吸収を促進させ、神経伝達や筋肉の収縮を行う作用があります。この濃度が30ng/ml以上をビタミンD充足状態、20以上30未満をビタミンD不足、20未満をビタミンD欠乏と判定されます。当院での検査の結果、骨粗鬆症と診断した患者さんの82%がビタミンD欠乏でビタミンD不足が16%であり正常はわずか2%出会ったことに私自身も改めてビタミンD検査の必要性を痛感しました。ビタミンDを多く含む食品はきくらげ、本しめじ、しいたけ、イワシやカツオ、サケなどの魚介類や卵黄・バターです。ビタミンD欠乏症には1日800-1,000 単位のビタミンD摂取が必要とされます。一方でビタミンDとカルシウムの補給によって骨折の予防に有効であるとする研究もあるものの、最近では否定する報告もあります。骨粗鬆症の予防にはビタミンD欠乏があれば補充を行いながら、運動、禁煙、過度のダイエットをしないことも重要です。中高年以上で骨折の既往がある方で骨粗鬆症検査をしていない方、閉経前後で骨粗鬆症を心配する女性のみなさんはまず整形外科で骨密度検査(特に腰椎と大腿骨近位部の骨密度が計測できるDEXAがおすすめ)を行うことをお勧めします。また、骨粗鬆症と診断された場合にはビタミンDの検査を含めてカルシウム、リンの濃度、ビタミンKの充足度、骨代謝マーカーを調べることで適切な治療の選択に繋がるので主治医と相談しながら治療を選択してください。

骨粗鬆症に伴う高齢者の腰背部痛の原因として椎体骨折や椎体偽関節による痛み、脊柱変形による痛み、骨粗鬆症自体の痛みがあるとされています。急性腰痛での脊椎新鮮骨折は30-60%という報告がありますが、骨癒合が完成していない椎体偽関節による痛みは椎体不安定性に伴う炎症細胞浸潤や血管新生、閉鎖腔における内圧上昇などの要因が複合して機械的、化学的、熱刺激などのポリモーダル受容器に作用して痛みが生じます。脊柱変形による痛みは椎体が前潰れになって生じる後弯増強による傍脊柱筋内圧上昇や筋疲労によって生じますし、胸椎部が後弯する代償性に腰椎が前弯増強することによる椎間関節へのストレスによっても生じます。骨粗鬆症症自体による痛みは骨吸収が亢進し、破骨細胞がホルモンを活性化することで生じる骨由来の痛みによって生じます。骨微細構造の破綻にともない骨内神経が刺激され、痛覚過敏状態になることなども原因とされています。このように原因が重複する場合もあるので治療者側も患者さんの痛みの状況や発症時期など問診をしっかり行い治療に当たる必要があります。

腰痛や頚部痛で通院したことのある方であれば腰椎牽引、頚椎牽引を経験されたことのある方は少ないないと思います。2001年の日本整形外科学会の調査では神経症状のある腰痛に対する保存的治療は牽引療法は1位であり、神経症状がない場合でも温熱療法に次いで2位でした。腰痛治療において牽引療法は有効か?ということに関しては2012年日本腰痛ガイドラインでは有効であるエビデンスが不足しているということでグレードIでした。最近の前向き研究で腰椎椎間板ヘルニアで明確な受傷機転があり、症状の持続期間が短く、腰痛の既往が10回未満の場合は短期的に日常生活の質が改善するものが多いという報告もあります。また米国では急性腰痛(1ヶ月以内)の5%、亜急性腰痛(1-3ヶ月)の31%、坐骨神経痛を伴う急性腰痛には30%に牽引が実施されている報告があり、頚部痛では77%、神経根症状のある患者には93%牽引が実施されている報告があります。海外でもエビデンスが乏しいとはいうものの実際には実施されていますがこれには患者さんとの関係構築に役立っているとのことですので患者満足度を高めるための手段として使用されているという意味合いではないかと思います。牽引の効果には後方椎体間の離開によるストレッチと可動域改善が期待できる機械的効果と椎菅孔の拡大による神経生理学的な効果があるので、即時的効果は期待できますがあくまでも効果が一時的であるということを認識する必要があります。