山口経済レポート連載記事 – ページ 3

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山口経済レポート

院長が2013年から山口経済レポート(http://www.ykr.co.jp/index.html)に毎月掲載している過去のコラムを掲載しています。腰痛を中心に様々な整形外科の疾患や情報を発信していますので順次アップしていきます。

勤務医で脊椎外科医として一日中手術場に入って手術していたのは8年以上前になりますが、手術中は集中しているときはアドレナリンが出ているので特に苦痛は感じませんでしたが、喉が乾くとマスク越しにストローで水をのませてもらったりしたり、立ちっぱなしがきつくて途中で座らせてもらったりしたことが今となっては懐かしい思い出です。最近の報告で外科医が手術後に頚部痛が62%増加し、腰痛が45%、背部痛が43%という報告がありました。以前このコラムでテキストネック症候群(いわゆるスマホ首)について紹介した際にも述べましたが頚椎が15度屈曲すると14kg60度屈曲すると30kgの重量が頚背部にかかるのでこの研究の結果もうなずけます。手術野が狭いところで下を向いて手術をせざるを得ない外科医ほど首腰への負担が多いということになり、内視鏡手術の場合、モニターを見ながら手術ができるのでその負担が少ないので、医学技術の進歩は外科医の肉体的負担を少なくするという意味においても今後ますます必要となることでしょう。やはり外科医も姿勢への意識や頚椎腰椎のセルフエクササイズは必要であると外科医を引退してから改めて思います。

 

参考文献  J Am Coll Surg(2020; 230: 554-560)

ゴールデンウィークはコロナの影響で皆さん、家でステイホームで自粛した方がほとんどだと思います。私もクリニックでの残務以外はほとんど家にいて読書やテレビを見て過ごしました。家にいるとつい寝そべったりくつろいだ姿勢で読書やテレビを見たりすることが多くなりますが、実はくつろいだ姿勢を長時間続けると、案外腰痛や肩こり、頚部痛の原因になることに注意すべきです。座位姿勢において腰椎後弯(腰が丸くなる)と骨盤後継を長時間持続すると椎間板内圧が高まり、腰背筋の緊張と血流障害が生じますし、その姿勢から急に立ち上がったりした際には急性腰痛(ぎっくり腰)にも気をつける必要があります。また頭部の重量は5−6kgですが頚椎が15度屈曲すると、約14kg60度で約30kgの重量として感じますので肩こり、頚部痛の原因になりうることは容易に想像がつくと思います。これを防止するためには1時間に1回は立ち上がって背伸び(腰をそらす)したり、頚を前後に動かして休憩することが有用です。足を組む事も決して腰痛には有効ではなくかえって腰痛を増強する事もあります。横向きで片肘をついた姿勢や仰向けで枕を高くして長時間テレビを見る姿勢も頚部痛、肩こりや腰痛の原因になるので長時間は禁物です。また家にいる時間が長いとどうしても運動不足になりやすいので家の周りを散歩したりする有酸素運動や屋内であればスクワットや片足立ちといったロコモ体操も有効ですのでぜひ実行してください。少し早足で腕を後ろに意識してふって歩くと運動強度は上がります。また決して11万歩を目指す必要はなく、高齢女性では4400歩でも死亡率が低下した、という論文もあるので自分のペースで歩くことが長続きするコツです。コロナに負けずステイホーム生活をエンジョイしましょう!

1月、2月に山口大学主催の慢性疼痛診療研修会の講師を担当する機会があり腰痛の評価の講義をしましたが、その際に診断エラーと認知バイアスについて調べる機会がありましたので紹介します。診断エラーとは、診断の遅れ、誤り、見逃しのことで、2018年に学問として成立しているそうです。救急の現場では初診時に10%の診断エラーがおきている可能性が指摘されています。診断エラーの原因として状況要因(医師のストレス、診療の時間帯、勤務形態、設備、人手)、情報収集要因(情報収集過程と解釈に問題がある)、統合要因(直感が医師に与える負の影響)があると考えられています。最近注目されているのが統合要因である認知バイアスです。医師の診断は早い思考の直感的診断と遅い思考の分析的診断がお互いに相補的に使い分けられながら的確な診断に結びついています。思考の歪みを起こす認知バイアスとは診断エラーに至る場合の直感のことで、1つの診断に6つ以上の認知バイアスが影響しているという報告もあります。You tubeの動画にもアップされているselective attention test(バスケットゴリラ)で白シャツを着た人がバスケットボールをパスする回数を数えるよう支持された動画にゴリラが写り込んでいるのですが、私もはじめ見たときは全くゴリラに気づきませんでした。(これを非注意性盲目といいます)疲れている時や時間に焦っているときは一番楽に処理できる思考に引っ張られやすくなり、本能的感情で判断が左右されたり、想起しやすいものを考えてしまったり、他の鑑別疾患を考慮することをやめてしまうなど様々な認知バイアスがあります。このように一度認知の歪みが発生するとその思考パターンは修正が難しく、診断エラーに直結しやすいことがわかっているとのことですので、私たち臨床の現場で働く医師は経験に基づく直感を大事にしつつも冷静に振り返る思考が必要でありますが、診断エラーはゼロにならないことを自覚しつつも日々反省する毎日です。

外来で小児の診察で付き添いの両親、祖父母からよく聞かれるのが「成長痛ではないでしょうか?」という質問です。成長痛とは幼児期から学童期の小児期にみられる生理的な四肢(特に下肢)の痛みで、夕方から朝方にかけて(特に夜中)突然下肢痛を訴え泣きだすこともありますが、自然に収まり翌朝は何事もなかったように元気になります。このような症状が続くと親は心配になりますので整形外科や小児科を受診されます。4−6歳に多く、幼児の3人に1人に見られるという報告もあります。19世紀にはリウマチ熱の部分症状と言われていましたが1939 Shapiroが器質的疾患を除外した原因不明の疾患を成長痛と報告しました。1951 Naish が関節のみに限定されない四肢の痛み、少なくても3ヶ月の既往を有する、睡眠などの日常行動を妨げるに十分な痛みといった特徴的疾患として定義しましたが、あくまでも除外診断になります。疲労、下肢・足部の変形などは関連性がないとされ、疼痛部位をさすったり温めたりする積極的スキンシップが効果的であること、筋肉のストレッチを行うと痛みが収まりやすいことから、痛みの閾値が低い子供が訴える筋肉の牽引痛とする考えもあります。

外来に受診されたら、まず痛い部位を診察して腫れや圧痛、関節の可動域、

歩容を確認し、必要に応じてX線検査、超音波検査を行います。骨折、感染(骨髄炎)、腫瘍、股関節炎、若年性関節リウマチ、血液疾患などが疑われる場合にはMRI検査や小児科紹介を行います。成長痛と診断した場合には両親には痛いときにスキンシップしてあげることをお勧めしていますが、MRI検査をお勧めする場合もありますのでまずは整形外科に相談してみてください。

フレイル(虚弱)とは、日本老年医学会が2014年に提唱した名称で老化に伴い、身体の予備能が低下し、健康障害を起こしやすくなった状態です。健常な状態と要介護状態の中間の状態で、筋力が衰える「サルコペニア」という状態から移動機能が低下した「ロコモティブ症候群」を経て、さらに生活機能が全般に衰える「フレイル」となり要介護状態に至ると言われています。

フレイルは動作が遅くなったり転倒しやすくなったりする「身体的要素」、認知機能の障害やうつ病などの精神や心理的な問題を含む「精神的要素」、そして独り住まいや経済的な困窮などの「社会的要素」の3つの要因が関与していますが、最近の論文で身体的フレイルのチェックシートが開発されました。疲労感(気分が沈み込んで、何が起こっても気が晴れないように感じましたか/何をするのもほねおりだと感じましたか…1.はい・0.いいえ)、筋力(階段を手すりや壁をつたわらずに昇っていますか…0.はい・1.いいえ)、有酸素能力(1kmぐらいの距離を続けて歩くことができますか…0.はい・1.いいえ)、活動量低下(1日のうち、座っている又は横になっている時間は、起きている時間の80%以上ですか…1.はい・0.いいえ)、体重減少(6カ月間で23kg以上の体重減少がありましたか…1.はい・0.いいえ)の項目の「はい」の合計が3点以上がフレイルである可能性が高いとのことですので特に前期高齢者の方で当てはまる方は要介護予備軍として早期の対策(リハビリの介入)が必要です。リハビリの基本は足腰の強化で特につかまり立ち、足踏み、スクワットは手軽にできますが間違ったやり方では膝を痛めることもあるのでわからない場合には整形外科にご相談ください。

骨粗鬆症は閉経後の女性や高齢者男性に生じることは以前述べましたが、妊娠出産前後に骨粗鬆症が生じることはあまり知られていませんので紹介します。妊娠中は胎盤から大量のビタミンDと女性ホルモンであるエストロゲン分泌されることで骨量を維持しますが、妊娠後期、授乳時にカルシウムの需要が増加し、ビタミンD、エストロゲン分泌低下により、腸管からカルシウムの吸収が低下して急激な骨量低下が生じます。(1ヶ月で2-3%低下すると言われています)この時期(妊娠後期や分娩後半年)に急性腰痛や背部痛で受診される女性で脊椎圧迫骨折が生じることがあり、これが妊娠授乳関連骨粗鬆症です。治療は脊椎骨折にはコルセット、安静ですが、骨粗鬆症治療には断乳してビタミンDの内服治療が一般的ですが

骨密度低下高度例ではビスフォスフォネート製剤、テリパラチドといった薬剤も使用します。日本での論文では妊娠関連骨折は0.048%、脆弱性骨折は0.016% 脆弱性椎体骨折は0.0069% と推計されるとのことで頻度は低いのですが、妊娠出産で腰痛背部痛が増強した場合には整形外科にご相談ください。(X線ではっきりしなくても骨密度検査で低く、脊椎骨折が疑われる場合にはMRI検査をおこなうことで確定診断できます)

私達整形外科医が小児の診察をしてレントゲン写真を撮像するときに原則として両側撮像します。なぜかというと小児は骨の成熟度が年齢により異なるので、患側(痛い方)だけでは骨折や脱臼など微妙な病変を見逃してしまう可能性があるからです。骨の成熟の程度を暦年齢と対照したものを骨年齢といい、骨年齢は身体の成長度をより正確に表す指標になります。幼少期に手や足は軟骨成分が多く、その中心に骨端核という骨ができその周囲に骨ができていきます。小児期になると長管骨(上肢・下肢)の中枢と末梢部には骨端線という成長線(軟骨)がありそこで思春期にどんどん骨が作られ骨の成長が起こり、最終的に閉鎖します。(男性が17才、女性が15才頃)レントゲン写真で骨端線が閉鎖すると大人の骨と同じ形態になり身長の伸びも止まることがわかりますので、教えてあげるとがっかりする子もいます。最近の論文で1935年生まれの子供と1995年生まれの子供の手と手関節のレントゲン写真で、骨端線の確認と閉鎖、すなわち骨の成熟年齢が男性で7ヶ月、女性で10ヶ月早まっていたという報告がありました。この事実から近年の子供の骨格や性の成長が早まっていることが予想され、環境ホルモンなどの影響が示唆されています。子供の体格が大きくなっていることは実感しますが、骨の強度がそれに追いついていないことも最近の子供たちの骨折を診療して思う今日この頃です。

ラグビーワールドカップは終わってしまいましたが日本がベスト8まで残ったことは今後も歴史に刻まれると思いますが、4年後さらに上を目指すよう期待しています。さて、今回は脳震盪についてのお話です。脳振等とは頭部に外力が加わった結果生じる一過性の意識障害、記憶障害のことで、タックルされて倒れたときや、タックルして勢いよくぶつかったとき、後ろ向きに倒れるときなど頭を打たなくても、頭の動きが突然止まったり、急に方向が変わったりした際に頭皮頭蓋骨を通して脳に衝撃が伝わることで生じます。以前は倒れている選手がいると魔法のやかん(?)が出てきて水をかけると選手が立ち上がると観衆から拍手が湧き、選手もプレーを続行していましたが、現在では(平成24年から)選手生命を守るために、厳格な基準が定められています。頭痛、嘔気、起き上がるのに時間がかかると脳震盪の疑いありとされます。痙攣、意識消失、見当識障害(場所や時間がわからない)、ふらつき、無表情などは脳震盪とされ脳震盪疑いでも退場になります。退場した選手は精密検査後、段階的競技復帰のルールに従います。受傷後2週間は練習と試合を禁止し、その後症状がなければウォーキング、ランニング、パス練習と上げていき、医師の許可を得てコンタクトプレーが開始され、競技復帰には最短でも3週間を要します。精密検査(CT,MRI)で異常がない場合は脳震盪という診断になりますが、急性硬膜下血腫があれば意識障害や死亡につながるので緊急入院、手術が必要になる場合もあります。脳震盪を再度繰り返すとセカンドインパクト症候群といって致死率が50%を超えることが報告されているので専門医に相談することが重要です。

ラグビーワールドカップで日本の快進撃が続き盛り上がっている今日この頃ですが今回はラグビーでのスポーツ外傷、とりわけ重症度の高い頸髄損傷、脳震盪について2回に分けてお話しします。頸髄損傷は日本では水泳飛び込み、体操についでラグビーが多く発症しています。ラグビーではタックルやスクラムで頭から当たった際に頚椎に屈曲、回旋方向に強い力が加わると骨折や脱臼を生じて頸髄損傷を生じることがあります。スクラムでは1列目の左右のプロップ、2列目のフランカーに多く発症するそうですが、最近ではスクラムでの頸髄損傷は30%減少し、ラック(ボールを持って倒れたところにボールを奪い合う密集プレー)による頸髄損傷が若干増加しています。頸髄損傷は損傷する高位(頚椎の何番めが損傷されるか)で上下肢の麻痺のレベルが変わってきます。頸髄損傷を疑え(手足が動かない場合)ば、グランドに担架と頚椎固定装具で固定して救急車で病院に搬送されます。バイタルサイン(体温、血圧、脈拍、呼吸、意識)をチェック後、脊椎外科医による画像診断、神経学的診断ののち手術適応を決定し早期手術、早期リハビリテーションを行います。上位の損傷ほどより中枢から動かず、呼吸筋の麻痺が生じると人工呼吸器や気管切開といった処置も必要となります(呼吸器離脱は呼吸リハビリをおこなうことで可能ですができる施設は限られています)ので、ラグビー協会も予防に力を入れています。ラグビー選手の頚部周囲筋が太く逞しく頚部に重りをつけて鍛えるのは予防の一貫でもあります。特にタックルするときの頭の位置はヘッドアップしておくこと、頭と肩は腰よりも上にすること非常に重要です。ラックの際は顔面と胸を地面につけるChin in ポジションも危険回避には有用です。一旦麻痺が生じると回復する場合と回復しない場合がありますが特に急性期に肛門の感覚が残っていることは予後の指標とされます。肉体と肉体がぶつかり合う一種の格闘技ですが、英国発祥の紳士のスポーツと言われていますので、どんなに屈強な選手でも一歩間違えれば頸髄損傷の危険性と隣り合わせにあるということも知っておいていただければ幸いです。しかしながらラグビーの試合を安心して見ることができるのは一流の選手ほど基本がしっかりしており、鍛錬の賜物であるとも言えるので今後の試合もしっかり応援しましょう。

貧乏ゆすりは日本では行儀が悪い、とされていますが、海外ではジグリング(1970年ソルター:貧乏ゆすり様運動)と言われ、変形性股関節症の保存的治療として近年注目を集めています。ジグリングとは股関節と膝関節を自分で小刻みに動かす方法で、意識すれば止めることができる自動運動、随意運動に分類されます。やり方は簡単で椅子に浅めに腰掛け、股関節と膝関節を直角に曲げ、足趾の先を床につけて踵を浮かせて上下させ(片脚づつでも両脚でも可)ます。毎日30分以上、できるだけ早く上下させます。ジグリングの他の効果としてふくらはぎの筋肉を動かすことによる血液循環が改善するのでエコノミークラス症候群の予防効果もあります。最近では変形性膝関節症、ロコモーション症候群にも効果があるという報告もあります。その他変形性股関節症に効く体操として座位での膝の開閉運動、立位での骨盤を揺らす運動、腹筋、大腿四頭筋の筋トレなども有効とされますので、毎日テレビを見ながら、読書、食事しながら、少しづつ初めて見てはいかがでしょうか?