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山口経済レポート

院長が2013年から山口経済レポート(http://www.ykr.co.jp/index.html)に毎月掲載している過去のコラムを掲載しています。腰痛を中心に様々な整形外科の疾患や情報を発信していますので順次アップしていきます。

近年痛みに関する研究が進んでおり、痛みという言葉の定義や概念が変化しています。痛みは生命を危険から避け、維持するために備わっている生体防御反応であり外敵や障害の対象が存在することで生じる感覚として認識されていましたが、国際疼痛学会によると痛みは感覚としてだけではなく情動(気持ち、感情)としても捉えるように変化しています。痛みは「からだ」から発生される警告信号であると同時に「こころ」から発せられる警告信号であるということも示されました。私たちが痛みを感じる時には外的刺激(打撲、切り傷、骨折などの外傷や熱傷、凍傷など寒冷刺激など)が痛みの伝導路を伝わり脊髄から脳に情報が伝わり痛みとして感じます。このような痛みは侵害受容性疼痛といいます。また痛みを伝える神経や脊髄、脳そのものに損傷が引き金になって生じる痛みを神経障害性疼痛といい、痛覚過敏(触っただけで痛い)なども特徴的です。この二つの痛みはある組織が損傷されて引き起こされた痛みですが、もう一つ痛みの原因がはっきりしない痛みを今までは心理社会的疼痛(心因性疼痛)といわれていたのですが、2016年に国際疼痛学会が組織の損傷がなくても生じる痛みを提唱しましたが昨年痛覚変調性疼痛という日本語訳に統一されました。これに伴い慢性疼痛(3ヶ月以上持続する疼痛)の分類も原因があるものを二次性疼痛と原因がはっきりしない一次性疼痛に分類されました。このような痛みの認識が今後の痛み治療に携わる医療従事者においては必要になりますので理解が難しいとは思いますがあえて紹介させていただきました。

 参考:日本ペインクリニック学会hp:

https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_bunrui.html#:~:text=%E3%82%89%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82-,%E9%83%A8%E4%BD%8D%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B%E5%88%86%E9%A1%9E,%E3%81%AF%E3%82%8F%E3%81%8B%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%82%93%E3%80%82

厚生労働省の委託事業で職場における腰痛予防サイトがオープンして動画も見れたりパンフレットもダウンロードできるので紹介します。

介護や看護、保育などの保健衛生業に従事する方向けの動画と、陸上貨物運送事業に従事する方向けの動画があります。腰痛にはぎっくり腰、腰椎椎間板ヘルニア、椎体骨折などがあり、原因として転倒、転落、動作の反復や無理な動作により発生します。業務別には男性が多い建設業や製造業などより女性が多い介護職、看護業の方が発生率が高い(介護職員では84%)です。腰痛の発生要因には個人的要因、動作要因、環境要因、心理・社会的要因が複合的に関与しています。厚生労働省では職場における腰痛予防対策指針を出しており、原則として人力による人の抱え上げを行わないこと(以上補助機器などのノーリフティングの導入)、対象者に適した方法で移乗介助を行わせるなどの取り組み、具体的な作業を想定した腰痛発生要因のリスク見積もりとリスクの回避・低減処置(リスクアセスメント)を示しています。具体的には前屈み、腰の捻り、中腰などの不自然な姿勢が男性は体重の40%以下(体重60kgとして24Kg以下)、女性は24%以下(14.4kg以下)にすること、リフトや福祉機器の活用、パワーポジション(重量挙げの選手の姿勢やバレーボール選手のレシーブ動作で持ち上げる)などを推奨されています。腰痛予防のストレッチングは作業の前後に行うことが効果的です。東京大学松平先生が監修されたこれだけ体操として両手で骨盤を押さえて前に押し込むように息を吐きながら3秒腰を伸ばすストレッチなどを紹介されています。これだけ体操は職種に関係なくデスクワークが多い腰痛持ちの方にも是非おすすめですので是非お試しください。

https://yotsu-yobo.com/

https://www.youtube.com/watch?v=jEaOLzIfIi4

ロコモティブシンドロームは運動器の障害のため、移動機能が低下した状態で、重症化すると要介護状態になり、疫学的には約7000万人いると推測されています。このコラムでも中高年のみでなく子供のロコモも増加していることをお話ししました。東大の山田先生らの論文で8000人以上の日本人の結果が報告され、40歳以上では1歳ごとにロコモ になる危険度が高くなるという結果でした。BMI25以上の肥満、18以下のやせ、女性、高血圧、糖尿病、運動習慣(週に数回の運動)がないと、ロコモ の危険度が有意に高いことも報告されました。40歳という年齢、いわゆる働き盛りの中年からロコモ の危険度が高くなることは、社会人となり仕事中心、家庭中心の生活習慣で運動習慣がなくなることへの警鐘とも言えます。運動習慣はエレベーター移動を階段に変える、早足で歩く、散歩するなど行動変容により徐々に自分の生活時間の中に組み入れていくことが可能ですので、このコラムが、あなたの行動を起こす一歩になれば幸いです。ちなみにロコモ の予防としてロコトレ(片脚立ち左右1分を一日3セットとスクワット5-6回を一日3セット)を推奨しています。

 

 

参考文献 

Yamada K, et al. BMC Geriatr. 2021 Nov 19.

サッカー選手などスポーツ選手で運動時(ランニング、キックなど)股関節周囲に痛みを訴える疾患の中に鼡径部痛症候群があります。20才前後のサッカー男子が大半を占め陸上競技中・長距離、ラグビー、ホッケー、ウェイトリフティングなどの競技でも生じます。海外(特にドイツ)では一時スポーツヘルニアの診断で(いわゆる脱腸)手術を行われていました。(過去にジュビロ磐田の中山雅史選手も手術をうけていますが疾患理解が広まった日本ではスポーツヘルニアは非常に稀でありリハビリテーションによる保存的治療が原則です)

医学的な定義としては股関節周辺の 痛みの原因となる器質的疾患がなく、体幹 ~下肢の可動性・安定性・協調性に問題を 生じた結果、骨盤周辺の機能不全に陥り、 運動時に鼠径部周辺に痛みを起こす症候群となります。問診・診察を詳細に行い、

MRI、CTを撮像すると恥骨結合炎、内転筋付着部炎、上前腸骨棘、下前腸骨棘剥離骨折、腸骨・恥骨疲労骨折、股関節周囲筋肉離れ、真正鼠径ヘルニアなど原因が特定できるものも多いので原疾患に応じた治療を行います。一定期間のスポーツ休止が必要です。疼痛部位の局所安静(ランニング、キック禁止)、物理療法に加えて運動療法が奏功します。可動性、安定性、協調性の問題を評価し、それを修正するアスレチックリハビリテーションを行います。マッサージ、筋力訓練、協調運動訓練(クロスモーション)などが基本です。初期のリハビリテーションは股関節周囲の内転筋、伸展筋(大殿筋・ハムストリングス)、屈曲筋(腸腰筋・大腿直筋)、のストレッチングから開始して疼痛が消失しるのを確認しながら運動負荷を上げていきます。早期復帰はかえって再発を繰り返します。慢性化すると長期間(2~3ヵ月以上)スポーツ休止を余儀なくされるので注意を要しますのでスポーツで長引く股関節周囲の痛みに悩まれているアスリートの方は整形外科専門にご相談ください。

今回はコロナワクチンでも話題になったアナフィラキシーについて説明させていただきます。アレルギーの原因となる物質(食べ物、ハチ刺創、薬剤)が体に入り、複数の臓器や全身に症状がでることを「アナフィラキシー」と呼びます。その中でも血圧の低下(血圧90未満)や意識レベルの低下、失神など、重症の場合を「アナフィラキシーショック」と呼びます。

アナフィラキシーの症状には蕁麻疹、くしゃみ・咳、嘔気・嘔吐などから始まり、その後改善する場合もありますが、症状が進行すると呼吸困難、意識障害・脈微弱、動悸・冷汗が出現する場合には救急車を要請しつつ、点滴・酸素投与、アドレナリンの注射を行います。ズボンやストッキングの上からでもためらわず大腿の外側に筋肉内注射を行います。エピペンという注射キットがあり、小児で食事でアナフィラキシーを起こしたことのある人は常備しています。アドレナリンなどの処置が適切に行われれなかった場合、最悪の場合があるので侮れない疾患です。

慢性腰痛治療は急性腰痛のように一筋縄ではいかないことは整形外科であれば皆認識していますが、投薬、ブロック注射、運動療法を組み合わせてなんとか患者さんの痛みの軽減を図るよう工夫していますが、今回テレビゲームが慢性腰痛に効果があったことを報告した千葉大学の論文を紹介します。40例の慢性腰痛患者を経口薬のみ投与した20例(男性12例および女性8例、平均年齢55.6歳)と経口薬に加えてニンテンドースイッチのゲームソフトのリングフィットアドベンチャーの中のエクササイズゲームを週1回40分行った20例(男性9例および女性11例、平均年齢49.3歳)にランダムに割り付けた8週間後の結果は腰痛、臀部の痛みおよび痛みの自己効力感がリングフィットアドベンチャーエクササイズ群が有意に改善されましたが、痛みの破局思考や運動恐怖症といった心理スコアには有意な改善は認められなかったそうです。痛みの自己効力感とは達成をもたらすような一連の行動を計画し実行する 能力に対する信念と定義され,人がある課題を 遂行する際に自分の可能性を認識していることを指します。私も早速リングフィットアドベンチャーを体験しましたがリングを持ちながら押したり引いたり、歩いたり、走ったりで結構汗もかく事ができる優れたゲームソフトであると感心しました。慢性腰痛の患者さんがこのゲームをクリアすることが痛みの軽減につながる可能性がありますので、ゲームのやりすぎには他の弊害も出てきますが、拡張現実(VR)のような近未来のデバイスを使用できるようなプログラムにも期待したいところです。

 

参考文献 Sato T, et al. Games Health J. 2021 Apr 22. [Epub ahead of print]

 

前々回コラムで健康的な食事・運動習慣は幸福感や満足度を高めると記載しましたが、コロナ禍でいかに健康維持のための食事や運動のモチベーションを保っていくか?ということも重要と思います。ドイツの論文で40才以上の中高年5000人にアンケートを行い、自分が感じている主観的な年齢を記載してもらい、その後のストレスなどを含めた健康度を3年間追跡調査した報告で、自分が実年齢より若いと感じている人は自覚的なストレスの程度と健康レベルとの間に関連が認められなかったという結果から、主観的年齢にはストレス緩衝効果が働いているといるという考察をしています。一方で主観的年齢と実年齢との解離が大きすぎるのは健康上のデメリットもあると警告しています。夜間のジャンクフードを我慢したり、加糖飲料や当分の多いお菓子、飽和脂肪酸の多いバターなどをやめてダイエットをすることは健康維持、長生きできるためだけでなく、自分の若さを保つ効果もあることを知って、(人に言われるのも非常に効果があると思いますが、自分自身がそう思い込むことも効果があります)それをモチベーションにしてコロナ禍を過ごしてみてはいかがでしょうか?

 

参考文献:

Wettstein M, et al. Psychol Aging. 2021 May; 36: 322-337.

日本整形外科学会が昨年骨粗鬆症性椎体骨折診療マニュアルを作成しました。2015年に骨粗鬆症学会が作成した骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインがあるのですが薬物療法が中心であり、診断や保存治療、手術についてはほとんどページが割かれていないことからQ &A方式で作成されており整形外科臨床医には非常に有用なマニュアルです。この中から特に私が注目したものを紹介します。まず症状で特徴的なのは体動時の痛みで、当院でも高齢者の急性腰痛はいわゆるぎっくり腰ではなく、椎体骨折が約半数いるという認識で診断にあたっています。画像診断ではエックス線検査だけでは早期診断で発見できないことがあるためMRI撮像を推奨しています。またベッド上安静も(1−2週間の)短期間の安静を推奨し、コルセットによる保存的治療も確立されていないとされています。(しかしながらコルセットは早期に動くためにも必要であるので実際には必ず作成しています)また保存的治療を行なっても痛みが改善できない場合には椎体内にバルーンを入れたあとセメントを注入する経皮的椎体形成術も有用な選択肢の一つであることも記載されました。(この治療についても様々な意見があります)治療薬としてガイドラインに記載のない薬剤(ゾレドロン酸:一年に1回静脈投与の薬剤とロモソズマブ:月1回皮下注射)も椎体骨折および大腿骨近位部骨折の抑制効果が高いことも追加されました。高齢者の脊椎骨折は整形外科外来でよく遭遇する疾患だけに私達整形外科医は最新の知見を参考にしながら早期診断、早期治療を行うよう日々心がけています。

参考文献:日整会誌 2020; 94: 882-906

私事で恐縮ですが、昨年末からダイエット+運動を行い3ヶ月で約8kgの減量に成功しました。そこで反省させられたのがいかにコロナ禍に運動習慣を怠り、カロリーオーバーの食事をしていたか、ということを考えさせられました。今回のダイエットで食事のバランス(糖質、脂質、タンパク質の配分など)も勉強になりましたので最近気になった健康的な食事・運動習慣は人を健康にする、という川崎医大の論文を紹介します。日本人2300人(平均49才)の生活習慣病のない健常人で食事に関して幸福感が高かったのが、昼食の時間が20分以上の人(10分未満の人に比べて)、塩辛い物を好まない人(好む人に比べて)、夕食が就寝2時間以上前の人(2時間以内の人に比べて)、夕食後の間食が週3回未満の人(3回未満の人に比べて)という結果でした。また運動習慣に関しては30分以上の集中的な運動を週に2回以上する人(1時間未満の人に比べて)、1日の歩行時間が1時間以上の人(1時間未満の人に比べて)、この運動習慣を2年間継続していた人は幸福感が高いという結果でした。健康的な食事習慣(寝る前の食事を避けること、早食いを避けること)、運動習慣(生活習慣病予防として推奨されているのは歩行・掃除などの身体活動を毎日60分以上

+ウォーキング・ラジオ体操など息が弾み、汗をかく程度の運動を週に60分以上)を継続することは肥満、生活習慣病の予防だけでなく、本人の満足度にも繋がることを示唆すると思いますのでぜひ食生活の改善(見直し)、運動習慣を取り入れることをご一考ください。ちなみに私は運動は膝に負担がかからないように水泳、エアロバイクを週2−31時間行い現在も継続しています。

 

参考論文 Takao T, et al. Biopsychosoc Med. 2021 Apr 1. [Epub ahead of print]

6/10テレビ山口のmixに出演させていただき梅雨の時期に気になる気象病、天気痛についてお話しさせていただきました。生出演初めてでしたので緊張して本番はあまりうまく話ができませんでしたのでここにその内容を紹介します。(以前にも一度コラムで取り上げました)気象病はメテオロパシー(meteoropathy)といい、天候や気候の変化(気圧、温度、雨など)で痛みが変化する病態です。ギリシャ語のmeteora(天候)とpathos(病気)が起源です。古くは紀元前400年前のソクラテスも指摘しています。中高年の女性に多く、神経質な性格に生じやすいと言われています。めまい、吐き気、全身倦怠感、朝ベッドから起き上がれない、気分の落ち込み、うつっぽい、喘息などのアレルギーの悪化や、頭痛、関節痛、手術後疼痛(古傷が痛むなど)、特に慢性疼痛は影響受けやすいとされます。愛知医科大学学際的痛みセンターの佐藤純先生は気象病の中でも痛みを伴うものを天気痛と名付けられました。6000人のアンケート調査の結果、天気痛のある人は全体の約一割で、慢性痛のある人の25%が天気が悪いと痛みが悪化すると答えたそうです。原因として鼓膜の奥にある内耳が気圧のセンサーがあり、そこでの情報が脳に伝わり自律神経を変化させ、交感神経と副交感神経のバランスが崩れて交感神経が活発になりすぎて痛みの神経を刺激したり、血管が過剰に収縮、痙攣して血管周囲の神経を興奮させるためであると考察されています。予防法としては自律神経のバランスを整える生活、すなわち規則正しい生活リズムで、適度に運動(頸部周囲のストレッチなども有効)して、朝食をとることが重要です。特に女性に多い天気痛の一つである肩こりについてエクササイズを紹介します。女性はストレートネックで頭の位置が胸椎(背中の背骨)より前に出ること、巻き肩と言って肩甲骨が内側に向く傾向があることも症状が出やすい原因の一つとされます。そこでまず、10分の姿勢を横から鏡でチェックしてみると、姿勢は頭が思った以上に前に出ていることがわかります。首を後ろにそらして自分の首の動きを確認してください。椅子に深く腰掛けて、胸を張り、下顎に示指、中指先端を当ててうなずく(二重顎になるよう)よう後ろに押します、3秒押して2秒話す、これを510回繰り返します。このさいに肩や腕、手に強い痛みが来る場合には無理しない方がいいです。エクササイズの後後ろに反る時に動きが良くなり、気持ちいい漢字があればエクササイズの効果がある証拠です。

もう一度鏡で首の動きをチェックして動きも良くなっていることも確認できれば、次のエクササイズもやってみましょう。顎を引いた後にゆっくり首を後ろに反らして反らし切った後に左右に軽く回します。(この時肩や腕、手に強い痛みが来る場合には中止してください)これを510回繰り返します。(1−2時間おきに行うことがベストですが1日3セットから結構です)再度首をそらして痛みや動きが良くなったかをチェックします。効果が実感できた方は是非つづけてみてください。痛みの改善のない方、エクササイズが合わない方、もっとしっかり習いたい方は理学療法士による運動療法を行うことができますし、他のエクササイズが効果がある場合もあるので整形外科受診もご検討ください。

(写真も当院ブログもご参照ください

https://www.toyotaorthopedicclinic.jp/wp-admin/post.php?post=6938&action=edit