山口経済レポート連載記事 – ページ 2

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山口経済レポート

院長が2013年から山口経済レポート(http://www.ykr.co.jp/index.html)に毎月掲載している過去のコラムを掲載しています。腰痛を中心に様々な整形外科の疾患や情報を発信していますので順次アップしていきます。

今回は痛風のお話をします。痛風は古来エジプトのミイラの関節に尿酸塩が見つかっており、アレクサンダー大王、レオナルド・ダ・ビンチ、ニュートンなども痛風で苦しんだそうで欧州では歴史の古い疾患です。日本では明治時代以前は痛風患者はいなかったそうですが、1960年以降に食生活の欧米化により増加しています。痛風とは高尿酸血症が持続して尿酸塩結晶が沈着した結果生じる痛風関節炎・痛風結節のことで、高尿酸血症は性,年齢を問わず血清尿酸値が7.0mg/dLを超えるものと定義されます。高尿酸血症は痛風関節炎の明確なリスクであり、種々の生活習慣病においても血清尿酸値が臨床上有用なマーカーになると言われています。高尿酸血症の頻度は,成人男性において,30%弱であり、女性は50歳未満で1.3%、50歳以上で3.7%と圧倒的に少ないのですが閉経後に血清尿酸値が上昇するので注意が必要です。高尿酸血症は現在も増加傾向であり、それに伴い痛風の有病率は,男性において30歳以降では1%を超えていると推定され,現在も増加傾向です。食生活の欧米化によるプリン体の摂取量が増え、カロリーの過剰摂取による肥満が増加したことが原因とされています。

痛風性関節炎で代表的なのが第1足趾付け根(MTP関節)の関節炎で、他に足関節炎、膝関節炎があり、関節周囲に発赤、腫脹、熱感に高度の疼痛を伴い、痛くて歩くのがやっと、という状態で整形外科を受診されることが多いです。診断は問診と視診で比較的容易ですが、確定診断として採血で尿酸値を確認しますが、痛風発作時には必ずしも尿酸値が高値にならないことはしばしばありますが、安心は禁物でその場合には1ヶ月後に再度検査をします。また関節液が貯留している場合には関節液を穿刺して偏光顕微鏡という特殊な顕微鏡で痛風結晶を確認しますが、最近は超音波検査で関節内に痛風の結晶が直接確認できます。治療は急性期にはまず炎症を抑えるために消炎鎮痛剤を通常より頻回に使用します。炎症所見が改善しない場合にはステロイド剤を短期間使用することもあります。約2週間で炎症が落ち着いたら高尿酸血症の治療薬(尿酸降下剤)を少量から開始します。尿酸排泄促進薬と尿酸生成抑制薬の2種類がありますが、近年発売された尿酸生成抑制剤(フェブキソスタット)を使用する場合が増えてきました。定期的に尿酸値を計測して尿酸値を6mg/dL以下にコントロールします。食事はプリン体の多い食事指導(肉類、内臓類、ビール、アルコール多飲)を行い、十分な水分摂取と適度な運動を指示しますが、激しい運動は痛風発生させることもあるので注意が必要です。痛風も生活習慣病と関係がありますので生活習慣を改める(見直す)いい機会と思って是非治療を継続することをお勧めします。

参考文献
高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第2版

腰椎椎間板ヘルニアの症状は腰痛と坐骨神経痛(一側の下肢痛)ですが、通常は神経学的所見から罹患神経根を予想して画像診断としてMRIを撮像します(その前にX線写真を撮像します)。治療は消炎鎮痛剤、神経障害性疼痛治療薬などを用いて内服治療と安静後、改善がなければ神経ブロック治療を行い、改善が乏しく、日常生活、社会生活が障害される場合に手術を勧めます。通常は2ヶ月以内に疼痛は7~8割は改善しますが、手術をする割合は20~30%と言われています。絶対的な手術適応として膀胱直腸障害(尿閉と言って尿意があるのに排尿困難であり、導尿で残尿が確認します)が生じた場合、急に急に急に下肢麻痺が進行した場合があります。
これまでも手術した群と手術しなかった群の比較で、1年後の成績に差がないという報告は散見しましたが、最近の論文で2年間の追跡調査されたオランダの論文(BMJ)が出ました。2~3ヶ月疼痛が持続する腰椎椎間板ヘルニアを手術する群と手術しない群に均等に割付(無作為試験と言います)した結果、手術しない群の中で疼痛が強く手術になった例が44%ありましたが56%は手術せずに改善しました。手術群が3ヶ月は優位に改善しましたが、1年、2年後には両者に有意差がないという結果であることから、患者に十分に情報を提供した上で、治療の選択と手術の時期については患者の判断に委ねるという結論でした。
この結果は決して手術してもしなくても一緒であるという解釈は危険であり、手術する時期(タイミング)により成績は変わってくる可能性があるので、患者さんの個々のケースに合わせて相談していく必要性があります。手術するかしないかは?私も日々患者さんと相談しながら、適切なタイミングを逃さないようにしていますが中々悩ましいです。

今回はテキストネック症候群を紹介します。 2015年フィッシャーマン博士(カイロプラクター)が提唱した言葉で、スマホやタブレットなどを頸部を前方に突き出したまま(フォワードヘッド肢位や亀の首肢位と言われます)長時間操作することで生じる反復されるストレス障害です。今や18~49才の79%がスマホを所有し、一日2時間使用していると言われています。特に小児、若年者に増加しており、21世紀病や現代病とも言われています。頭部は10~12ポンド(5~6kg)の重量があり、頚椎が15度屈曲すると、27ポンド(約14kg)の重さに感じられる。脊椎へのストレスは屈曲の角度により増加し、60度で60ポンド(約30kg)になります。進行すると、頸部痛、肩こり、頭痛、上肢への放散痛、筋力低下、胸椎の後弯(いわゆる猫背)、呼吸が浅くなり、肺機能の低下の原因になります。2017年の論文でもX線検査で頚椎のアライメント(配列)の変化(通常前弯と言って前に弯曲しているが、むしろ後弯する)が認められることや、脊椎外科医師がこのような小児の将来には手術が必要になる可能性も示唆しています。また、座位より立位でのスマホ使用は頸部にさらなる負荷を生じます。治療は予防として長時間のスマホやパソコン使用を控えること、目と水平な自然な位置にモニターが来るようにすること、姿勢を頻回に変える、ストレッチ、顎を指で押して頭部を後方移動するセルフエクササイズがあります。長時間下を見る姿勢を避けるため、使用者に警告することができるアプリを利用したり、スマホを操作している時の姿勢を友人に撮像してもらい、待ち受け画面で使用することで休憩を取ることを促すなどの自己防衛もあるそうです。
さて、当院ではこのような原因を含めて受診された頸部痛、肩こりの患者さんには主としてマッケンジー法で評価、治療します。私が診察してレッドフラッグ(治療の対象にならない病状)を除外したのちに理学療法士に姿勢の指導と反復運動によって痛みや可動域が改善する方向が見つかれば、セルフエクササイズとして自宅や職場で実践してもらうことで治療します。もちろん全てマッケンジー法で良くなるとは限りませんのでトリガーポイント注射や他の方法が有用なこともあります。このほかにも治療法はありますので、お悩みの方は まずは最寄りの整形外科に相談することをお勧めします。

骨粗鬆症治療薬には骨からカルシウムが出ていくのを防ぐ骨吸収抑制剤と骨を作る骨形成促進剤がありますが、骨吸収抑制剤であるイバンドロン酸ナトリウム水和物がよく使用されています。この薬を内服されている患者さんが時々この薬を飲むと顎の骨が溶けると聞いたのですが、本当でしょうか?と言われたり、この薬を飲んでいると虫歯の治療ができないので止めるように歯科の先生に言われました、というお話を聞くことがあります。この話の真相は、2003年にイバンドロン酸ナトリウム水和物による顎骨壊死の報告が初めて報告されたことにさかのぼります。この報告は実際は悪性腫瘍の患者さんに高用量のイバンドロン酸ナトリウム水和物の注射薬が投与されたもので骨粗鬆症の治療薬のイバンドロン酸ナトリウム水和物ではありませんでした。しかし2004年に骨粗鬆症治療薬のイバンドロン酸ナトリウム水和物投与中で難治性骨髄炎(虫歯から顎の骨に炎症が波及した疾患)の報告があり、以後イバンドロン酸ナトリウム水和物関連骨壊死(いわゆる骨が壊死する=腐る、頭文字をとってBRONJ:ブロンジェと呼びます)という名称で医科歯科の間に浸透していきました。

また骨吸収抑制剤にはデノスマブという注射薬での発生もあることから、骨吸収阻害剤関連顎骨壊死(ARONJ:アロンジェ)とも言われています。2017年に報告された論文では日本での発生率は10万人年対40とされ、骨粗鬆症を主に治療する整形外科医師と実際に虫歯の治療をする歯科医師にとって悩ましい問題とされてきました。しかしながらこれらの報告はいずれも後ろ向き研究(過去にさかのぼって発生率を調べた研究)であり、2004年にドイツでの前向き研究では発生率は10万人対1以下という結果で、日本の骨粗鬆症至適療法研究会での大規模調査でもイバンドロン酸ナトリウム水和物を投与後2年間で顎骨壊死の確定診断は認められず、むしろ歯周病の改善効果を有する可能性があるという報告が昨年の日本骨粗鬆症学会でなされました。

また骨粗鬆症至適療法研究会でのアンケート調査ではイバンドロン酸ナトリウム水和物を休薬せずに抜歯した206例中53%あったが抜歯後顎骨壊死が発生した例はなかったとの結果でした。2015年骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインでは、イバンドロン酸ナトリウム水和物服薬が3年未満で危険因子(飲酒、喫煙、糖尿病、ステロイド治療、肥満、抗がん剤治療、口腔内衛生状態不良)がない場合には原則として休薬は必要ないが、服薬3年以上か3年未満でも危険因子がある場合には、休薬による骨折リスクの上昇、侵襲的歯科治療の重要性、休薬せずに侵襲的歯科治療を行なった場合の顎骨壊死の発生リスク(10万人中0.85人、0.01~0.02%)について医師と歯科医師が事前に話し合って方針を決める、とされ休薬の期間は3ヶ月を推奨されています。この休薬期間が3ヶ月という言葉が一人歩きして、イバンドロン酸ナトリウム水和物を内服していると虫歯になっても3ヶ月は治療できない、あるいは虫歯が治りにくいのはイバンドロン酸ナトリウム水和物のせい、と歯科医師から患者さんが言われる、歯科医師との連携不足などが原因で誤解が生じたためと考えられます。

双方の誤解を解くべく、日本でも呉市や遠賀郡で医師会と歯科医師会が勉強会を開き、地方自治体を巻き込んで連携する仕組みづくりをされている地域があるので大いに見習う必要があります。顎骨壊死を恐れたために、骨粗鬆症治療が遅れて骨折を生じてしまうことを避けるべく、医師と歯科医師がお互い連携する必要があります。当院でも骨粗鬆症治療を行なっている患者さんには歯科への定期検診をお勧めして、歯科への紹介状も積極的に書くことで連携を取るようにしています。歯周病予防は生活習慣病予防に関しても非常に有用であり、イバンドロン酸ナトリウム水和物を内服していても歯の定期検診を行なって歯周病、虫歯の予防をしていれば怖がる必要はないことを強調したいと思います。

参考文献
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会(HPよりダウンロード可能)

よく天気が悪いと関節痛が悪化する、雨が降ると古傷が痛む、という話を聞くと思います。気象や天候が変化すると発症したり、症状が悪化する疾患を気象病と言います。気象病には痛み、めまい、喘息など様々な疾患が含まれます。愛知医科大学学際的痛みセンターの佐藤純先生はその中でも頭痛、肩こり、膝痛、リウマチの関節痛、ケガの後の痛み、線維筋痛症の痛みなど天候の影響を受ける痛みを天気痛と名付けられました。
6,000人のアンケート調査の結果、天気痛のある人は全体の約一割で、慢性痛のある人の25%が天気が悪いと痛みが悪化すると答えたそうです。一方、65才以上の155万人での大規模調査では、関節リウマチ、変形性脊椎症、変形性関節症などの関節痛、腰背部痛で受診した割合を雨が降った日と降らない日で調査して差はなかったと報告した論文が2017年に出ました。
一方、京都大学の寺尾先生らは2万人の関節リウマチ患者の研究で、関節の腫れと痛みは気圧と負の相関がある(気温は関係なし)と報告されています。佐藤先生らは原因として鼓膜の奥にある内耳が気圧のセンサーがあり、そこでの情報が脳に伝わり自律神経を変化させ、交感神経と副交感神経のバランスが崩れて交感神経が活発になりすぎて痛みの神経を刺激したり、血管が過剰に収縮、痙攣して血管周囲の神経を興奮させるためであると考察されています。
予防法としては自律神経のバランスを整える生活、すなわち規則正しい生活リズムで、適度に運動(頸部周囲のストレッチなども有効)して、朝食をとることが重要です

参考文献
佐藤純:天気痛 つらい痛み・不安の原因と治療方法 (光文社新書)
Jena AB, et al. BMJ. 2017;359:j5326.
Terao C, Hashimoto M et al. PLOS ONE published 15 Jan 2014

これも耳慣れない言葉と思いますが、脊柱の安定性には脊柱に直接付着するローカル筋(体幹深層筋)と脊柱から離れた位置から作用するグローバル筋(体幹浅層筋)に分類されます。ローカル筋のスタビライザー機能が低下すると、脊柱が不安定となり、グローバル筋のモビライザー機能の低下が生じ、グローバル筋への過剰な負担が生じると、筋膜や骨への付着部障害が生じます。ローカル筋は脊柱に直接付着するので単関節筋とも言われ、グローバル筋は多関節筋と言われます。脊柱の理想的な運動方法はローカル筋で脊柱を安定させ、グローバル筋による大きな回転モーメントを用いて大きく早い動作を生み出すことです。単関節筋の機能不全による関節の不安定性によって関節障害が発生し、腰椎椎間板や椎間関節障害が生じ、その不安定性を抑制するために多関節筋への負荷によって筋、筋膜、筋付着部に障害が発生します。このような病態はスタビライザーである深部筋が適切に働いていないために生じたもので、これをスタビライザー機能不全症候群と早稲田大学の金岡教授が提唱されました。他にも肩関節インピンジメント症候群や上腕骨外顆炎、大腿内転筋付着部障害、腸脛靱帯炎などもスタビライザー機能不全症候群に分類されます。体幹のローカル筋は腹横筋、内腹斜筋、腰方形筋内側線維、多裂筋、グローバル筋は腹直筋、外腹斜筋、腰方形筋の外側線維などです。体幹トレーニングの方法としてお勧めしたいのが第一段階としてドローインです。腹横筋を意識して、仰向けで息を吐きながら、お腹を限界まで引っ込めた後に、さらに限界まで引っ込めると効果的です。第2段階としてハンドニーがあり、四つ這いから片脚あげ、その後、手のひらを下にして逆側腕を上げ10秒キープして左右で3セット行います。第3段階はエルボーニーで肘と膝をついて手足を上げます。肩から膝が一直線に、片方の足を軽く浮かせ次に反対側の腕を伸ばします。第4段階はバックブリッジで、仰向けで腰を浮かせ肩から膝が一直線になるよう維持して、腰を反らさず、骨盤丸め気味で背中尻をしっかり使って支えます。朝と運動前に行い、慣れるまでは毎日行うことをお勧めします。自分のできるペースで第一段階から初めてみてはいかがでしょうか?

・参考文献

金岡恒治:腰痛の病態別運動療法 体幹筋機能向上プログラム 文公堂

金岡恒治:腰部体幹丸わかりトレーニング ベースボールマガジン社

今回はアスリート(運動選手)の腰痛についてお話しします。早稲田大学教授の金岡先生によると腰痛の機能的評価をすること、すなわちどのような姿勢や動作で腰痛が誘発されるかを問診で把握して、診察所見(誘発テストや圧痛)で病態を推定します。くしゃみ、咳、屈曲動作、骨盤後傾位での座位で腰痛が誘発される場合には椎間板性腰痛を疑います。MRIでの椎間板の突出や信号変化や椎間板ブロックで腰痛が消失するか?で診断します。腰椎の前弯が強く、骨盤前傾、腰椎伸展時に腰痛が誘発される場合には椎間関節性腰痛を疑います。腰椎を伸展、回旋して疼痛を誘発するケンプサイン陽性例や椎間板ブロックで診断を確定します。仙腸関節性腰痛は片脚に体重負荷がかかるサッカー、ホッケー、フェンシング、スケートなどのアスリートには比較的多いとされ、次に出産後の女性に多いとされます。仙腸関節部を指一本で指すようなワンフィンガーテストが陽性であり誘発テストではニュートンテスト、ゲースレンテストなどがあります。疼痛が傍脊柱菌に沿ってあり、運動時に誘発されれば筋筋膜性、筋付着部性腰痛を疑いますが、外腹斜筋、内腹斜筋、腹直筋に限局した圧痛であれば同部の肉離れも発生率が増えているそうです。腰椎の伸展動作を繰り返すことで隣接する後方の棘突起がぶつかりあって疼痛を生じる棘突起インピンジメント症候群なども注意が必要です。屈曲負荷が増加すると椎間板内圧が増加して腰椎椎間板ヘルニアになり腰痛のみでなく、下肢痛も生じるようになるとストレートレッグレイジングテスト陽性や知覚障害、筋力低下などが出現し、MRIが必要になります。伸展負荷が増加すると腰椎疲労骨折(腰椎分離症)へ移行することがあり、アスリートにとって競技からの長期離脱を余儀なくされます。このような診断に基づいて治療方針を決定し、リハビリメニューを作成します。特にアスリートの腰痛には体幹の安定性が重要で深部筋を鍛えることが必要となりますが、最近では高齢者の慢性腰痛にも深部筋を鍛えることは有用とされているので次回お話しします。

イップスという言葉を最近よく聞くことがありますが、ご存知でしょうか?子犬が吠える、という意味で集中すべき場面において、プレッシャーのために極度に緊張することが原因で震えや硬直を起こしてプレイのミスを誘発することです。1930年代に活躍したプロゴルファーがこの症状によって引退を余儀なくされたことで知られるようになりました。イップスはスポーツでは野球、ゴルフが多いのですが、そのほかのスポーツ全般と武道にも生じます。特に野球では正確なコントロールが求められる投手、内野手に多く、四球や暴投などのトラウマからイップスに陥ることが多いようです。武道では弓道、アーチェリーなど弓を引いて弦を離せなくなったり(もたれ)、弓を引いて矢をすぐに発射してしまう(早気)症状が有名です。イップスを生じやすいのは真面目で責任感が強く、心優しい選手ほど生じやすく、気を使うが、普段はあまり緊張しない人が多く、逆に緊張しやすい人はならないことが多いです。医師へのアンケート調査でスポーツで51%が経験したという報告もありますので決して稀な症状ではありません。治療としては失敗した場面を直視して、徐々に成功体験を積み重ねること、医学的には慢性腰痛でもエビデンスのある認知行動療法になります。症状のきっかけによって考え方が動かされ、感情や行動が出てくる(認知再構成)ので、その考え方を変化させることで結果として出ている症状(行動や感情)へ介入して、再発を予防します。イップスになって、今まで当然できていたことが出来なくなり、周りの理解が得られないことが一番辛いことでありますが、これには本人がイップスになったことを自覚して(あるいは周囲のコーチなどが把握して)周囲に打ち明けたり、周囲の理解と手助けが重要になります。スポーツの場面だけでなく、普段できていた仕事、手技が出来ない場合に一人で悩まずに、イップスではないか?という意識を持っていただければ幸いです。

整形外科医として運動器(腰痛、頚部痛、関節痛、神経痛など)の痛みのある患者さんと接していて痛みをなんとか治療しようと日々過ごしていますが、中にはなかなか痛みが取れない方に遭遇すると自分の力不足と無力感に苛まれる時があります。そんな時にこの言葉に出会いましたので紹介します。詩人のキーツが発見し、精神科医ピオンにより再発見された言葉で、精神科医の帚木蓬生(ははきぎほうせい)氏の著書(朝日選書)のタイトルで、副題に答えの出ない事態に耐える力とありました。目の前にいる痛みを訴える患者さんに対して医師は問診、診察、画像所見などを駆使して痛みの原因を特定し、治療を提供しようとしますが、このようにできるだけ早く回答を出すことが、ポジティブ・ケイパビリティ(問題解決能力)です。一方でどうしても解決できないときに持ちこたえていく能力がネガティブ・ケイパビリティです。この著書の中に、治療上大切なことは今生じていることを手を加えずに持ちこたえることである、数週間、数ヶ月、数年と治療を続けるうちに何とかなるのが日薬で、患者さんに主治医がしっかり見守っている眼があると伝えることが目薬、あなたの苦労は私がちゃんと知っていますという主治医がいると耐え続けられる、といった内容は痛みの治療を行う上で大いに参考になりました。プラセボ効果についても、ラテン語で「私を喜ばす」という意味であり、プラセボによる鎮痛効果は前頭前野が活性化され、脳内麻薬のエンドルフィンが放出して痛みを和らげるので、体内の自然治癒の仕組みに良い影響を与えるので、プラセボ効果は医学においてもむしろ肯定的に捉えられるようになってきました。医者が患者に処方できる最大の薬はその人の人格である、ということも記されており、患者さんの訴えを真摯に受け止め、(時には早急な答えを出さないで)痛みに寄りそうことも必要であることを痛感しました。

-学校安全WebのHPから-

以前は運動会や体育祭で組体操が行われてきましたが、2014年に大阪府八尾で起こった10段ピラミッドの崩壊動画がテレビのニュースなどで流されたことが契機となり、マスコミが一斉に組体操の危険性を取り上げたことから注目されるようになりました。最近の朝日新聞の一面に組体操を中止する小中学校が増加していることや、日本スポーツ振興センターの災害共済給付の記録から組体操の事故は2015年に約8000件あり、うち4分の1が骨折であったこと、1969年以降から9人が死亡、92人が生涯の残るけがを負ったとする記事が掲載されたので、日本スポーツ振興センターの学校安全WebというHPを調べると、「体育的行事における事故防止事例集」で詳細に検討され、対策も報告されていました。平成27年の学校の管理下における事故災害で種目別には徒競走(リレー、障害物競走を含む)が 36.5%と一番多く、騎馬戦等対 戦型(棒倒し、棒引き、綱引きなどを含む)の種目が 19.7%で2番目に多く、組体操、むかで競走、二人三脚や縄跳びなども3%から5%程度発生しており、組体操が一番事故が生じやすい、というわけではありませんでした。運動会、体育祭中の事故は5.2%で、むしろ練習中に生じることが多く。組体操競技別にはタワー16%、ピラミッド13%、サボテン7,5%、飛行機2%、倒立15%、肩車8%であり、タワー、ピラミッドと同様に倒立も事故が多いという結果でした。組体操の安定度を高めるためには、土台の正しい姿勢は体を真っ直ぐに立てること 、土台と乗り手の結合部分 はしっかりと固定させること、組体操実施時は「顔を上げる」「声を掛け合う」こと、指導者自らが体験すること、平面ピラミッドに関しては、小学校では3段、中学校以上で4段までが限界であるなどの対策が報告されていました。またフローチャートとして、専門的知識、指導力を持った指導者がいて十分な指導時間が取れて、組体操に向けた教員の意識が全体的に高い場合にのみ従来の組体操でも良いが、それ以外では新しいスタイルの組体操を指導するように提言してありました。準備期間が短いことも生徒、先生側も負担になっていると思いますが、事故が生じるような危険なことは止めてしまえ、と組体操自体を否定するのではなく、安全性を保てるような工夫をして組体操を次世代につなげていって欲しいと願っています。