山口経済レポート連載記事 – ページ 2

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山口経済レポート

院長が2013年から山口経済レポート(http://www.ykr.co.jp/index.html)に毎月掲載している過去のコラムを掲載しています。腰痛を中心に様々な整形外科の疾患や情報を発信していますので順次アップしていきます。

外来で時々受診される患者さんで肩が上がらない(挙上困難)という場合に私たち整形外科医は何を疑い、どんな病態を思い浮かべながら診察しているか?をお話しします。まず肩が外傷(スポーツや転倒)などなく急に上がらなくなり夜間も痛くて眠れないという訴えの場合には肩の腱板の石灰沈着症を疑います。その場合肩はどの方向に動かしても激痛があり石灰のたまった部分に圧痛(押さえると激痛)があります。外傷(転倒や衝突、重量物挙上)が原因の場合は腱板断裂、上腕骨近位端・鎖骨骨折や肩関節、鎖骨遠位の脱臼(肩鎖関節脱臼)がないか?の鑑別が必要です。これらの疾患をまず疑い視診、触診によりどの部位をx線撮像したらいいかを診察の際に判断します。(石灰沈着や鍵盤断裂は超音波検査を先にすることも多いです。)また腱板断裂の場合は一回の外力だけでなく繰り返される外力で切れる場合もあり、ある程度までは挙上できることが多いです。また外傷がない場合に石灰沈着症以外に注意すべき疾患があります。それが神経痛性筋萎縮症と頚椎症性筋萎縮症です。突然の肩から腕の激痛(肩甲骨背側)後に筋力低下を生じる疾患ですが、どちらも注意すべきは肩が上がらないだけではないということです。診察では肘、手首、手指筋力で左右差(筋力低下)がないか?を診察し、知覚障害も調べます。頚椎症性か神経痛性かは中枢性か?末梢(神経)性か?ということで、麻痺に一致した頚椎の圧迫所見があるか?をMRIで調べます。病名にある筋萎縮症というのはある程度時間が経過してから筋肉が痩せてくるので初診時はないことが多いです。神経由来の場合の割合は頚椎症性筋萎縮症と神経痛性筋萎縮症が9:1で圧倒的に頚椎由来の場合が多いです。頚椎症性筋萎縮症の確定診断には電気生理学的検査(筋電図や経頭蓋磁気刺激)を行います。神経痛性筋萎縮症は原因は不明ですがステロイド投与などで回復することも多いそうですが、頸椎症性筋萎縮症は回復しない場合もあり頸椎除圧手術が必要になることもあります。肩が上がらないからと言って肩の病気だけとは限らないということも整形外科医は考えながら診療にあたっています。

 

腰痛患者数は全世界では6億3200万人(2012Lancet)、日本では約1,000 万人で、人口千人あたり約90人以上で国民の愁訴の中で第1位です。また肩こり(首こり、頚部痛を含めて)は日本では女性で人口千人あたり約120人で愁訴の1位です。(厚生省国民生活基礎調査)また2016年度の30-40才代の男女5万人のウェブ調査でも肩こり54.6%、腰痛46.8%で肩こり歴は平均12.4年、腰痛歴は平均9.9年と慢性化しているという結果でした。(県別ランキングで山口県は肩こり38位、腰痛28位で、肩こり、腰痛が少ない県ではストレス度は低く、満足度も高いという結果でした。)肩こりと腰痛の関連はこれまでもあると考えられていましたが明らかなエビデンスはありませんでしたが、最近弘前大学整形外科の先生の論文によると1122名の一般住民の調査では肩こりのみが22.5%、腰痛のみが16.2%であり、両者が併存している人が29.4%と約3割を占め女性に多いという結果でした。また肩こりと腰痛の併存は、男女双方のメンタルヘルス状態の悪化と関連しており、女性では身体的QOL(生活の質)が低いこととも関連していたという結果でした。肩こりが先か?腰痛が先か?という問題は卵が先か鶏が先か?という論争にも似ていますが今後両者の関係が科学的にも明らかにされて来ると考えますので、腰痛だけ、肩こりだけの方は両者が合併しないように早めに対策される(整形外科受診する)ことをお勧めします。

参考文献 https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/site_loxonin-s/gaiyou/common/pdf/research01.pdf

Kumagai G, et al. BMC Musculoskelet Disord. 2021; 22: 14.

巷で話題のHIT(高強度インターバルトレーニング)をご存知でしょうか?田畑メソッドとも言われて強い負荷の筋トレを20秒行っては10秒休む、というのを4種目、2周分繰り返す、というもので短時間で脂肪燃焼効果が高いと言われていますが、心拍数もかなり上がるので中高年では注意する必要があります。私もトレーニングする際には心拍数をモニターしながら行っていますが、心拍数が150以上は休憩を入れるなど注意が必要です。高強度(最大筋力の70%以上)の運動と低強度(最大筋力の50%未満)の運動はどちらが効果的か?ということは以前から比較されてきましたが、前回紹介したサルコペニア(筋肉喪失)にはどちらがいいとは結論づけられませんが、中高年で運動を習慣づけるための行動変容を促すという点においては高強度トレーニングの方が有効とのことです。一方で変形性膝関節症には高強度と低強度筋力トレーニングで差がなかったという結果が最新の論文にあるように中高年で肥満や運動不足を実感したときには低強度の運動から行い、痛みが軽減してから徐々に(できれば指導の元に)高強度トレーニングを行うことをお勧めします。腰痛や膝痛のあり運動することに不安がある方は整形外科を一度受診していただき相談してみてはいかがでしょうか?

参考文献

健康支援 20135-1 第151

JAMA2021; 325: 646-657

ロコモ ティブ症候群とサルコペニア、フレイルという3つのキーワードを本コラムでも何回か取り上げました。簡単におさらいするとロコモ ティブ症候群は移動機能の低下をきたし、進行すると介護が必要になるリスクが高い状態で、サルコペニア(筋肉喪失)は高齢期に見られる骨格筋量の減少および筋力または身体機能の低下で、フレイル(虚弱)は加齢に伴い身体の予備能力が低下し、健康障害を起こしやすくなった状態です。サルコペニアはロコモ 、フレイルの原因にも結果にもなりうる病態で65才以上、歩行速度低下(秒速0.8m以下)、握力低下(男性26kg,女性18kg未満)、筋量低下と基準が明らかであることが特徴です。全てが認められれば重症サルコペニア、握力低下と歩行速度低下のいずれかと骨格筋量減少があればサルコペニア、骨格筋量減少のみであればプレサルコペニア、握力低下のみであればダイナペニアと分類されます。日本での最近の健診結果では高齢者ではサルコペニアは男性1%、女性5%で、プレサルコペニアが男性9%、女性3%、ダイナペニアは男性9%、女性17%という結果でした。一方18-20才の若年男女ではサルコペニアの診断基準を満たしたのは男性0.4%、女性1%、プレサルコペニアはそれぞれ9%、3%、ダイナペニアは0.4%、1%という結果でした。この結果より高齢男性はプレサルコペニアが多く、女性は若年でも高齢でもダイナペニアが多いということが判明しました。若年期から過度なダイエットはせずにエネルギー摂取をして運動で筋肉量を増やすことが必要であり、特に若い女性は握力低下(ダイナペニア)が将来のサルコペニアにつながるので注意が必要です。

腰痛や下肢痛を伴う症状を坐骨神経痛と言います。原因としては腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症など代表的な疾患ですが、治療としては薬物療法、神経ブロック、手術以外に運動療法がありますが、一般的には神経症状(下肢痛)が軽減してから運動療法が行われることが多いです。最近の論文で坐骨神経痛に早期に運動療法を行ってその効果を見た論文が発表されました。過去3ヶ月以内に坐骨神経痛を発症した患者さんに早期運動療法を行った結果、1年後に大幅に改善した割合が対照群28%と比較して45%と高かったそうです。

腰痛ガイドラインでは急性腰痛の治療法に運動療法は推奨されず、慢性腰痛には推奨されています。一方で運動療法は腰痛の予防には効果があり推奨されています。そこで私は急性腰痛でも、予防効果もある運動療法であれば効果があると考えて当院ではマッケンジー法という考えを基本に積極的に運動療法を行っています。坐骨神経痛においては神経症状が高度の場合にはブロック療法と薬物稜堡を組み合わせて疼痛を軽減してから運動療法を行っています。急性腰痛の場合と同様に坐骨神経痛でも長期間安静にするより、投薬、ブロック等で疼痛を軽減させて運動療法を比較的早期に行うことで社会復帰も早まる可能性も期待できますので整形外科にご相談ください。

参考文献 Fritz JM, et al. Ann Intern Med. 2020 Oct 6.[Epub ahead of print]

近年注目されている病態として慢性疼痛があります。厚労省も注目して慢性疼痛を理解した上で治療できる施設を増やす試みを行って先日私も日本いたみ財団主催の慢性疼痛診療システム普及・人材養成モデル事業研修会にオンライン参加しました。慢性疼痛とは国際疼痛学会が治療に要すると期待される時間の枠を超えて持続する痛み、あるいは進行性の非がん性疼痛に基づく痛みで一般的には3ヶ月以上持続する痛みと定義されます。(ちなみに1ヶ月以内のによくなる痛みを急性疼痛、1−3ヶ月持続す痛みを亜急性疼痛と言います。)原因別分類では侵害受容性疼痛(いわゆるけがなどによる痛み)、神経障害性疼痛(いわゆる神経痛の痛み)、心理社会的疼痛(いわゆる心因性)がありますがこれらが複雑に絡んだ混合性疼痛であることが多いとされます。これまで慢性疼痛の分類は7つ(一次性慢性疼痛、がん性慢性疼痛、術後痛および外傷後慢性疼痛、慢性神経障害性疼痛、慢性頭痛および口腔顔面痛、慢性内臓痛、慢性筋骨格系疼痛)に分類されていました。今回の改定では慢性一次性疼痛と慢性二次性疼痛に分類されました。線維筋痛症、過敏性腸症候群、筋骨格系または神経障害性に同定されない腰痛、複合性局所疼痛症候群などが該当します。慢性疼痛の治療に関しては、患者さんの訴えをよく聞いて、どのカテゴリーに当たるかを認識した上で治療戦略を立てて行く必要性があります。

ロコモティブシンドロームはご存知でしょうか?2007年に日本整形外科学会が提唱した運動器の障害のため、移動機能が低下した状態のことで、ロコモが重症化すると要介護状態になります。2013年にロコモの判定にロコモ度テストを発表し、2015年に臨床判断値としてロコモ度1とロコモ度2を制定しました。疫学的にはロコモ度1以上の人は4,590万人、ロコモ度2の人は1,380万人いると推測されています。ロコモ度1はどちらか一方の脚で40cmの台から立ち上がれないが、両脚で20cmの台から立ち上がれる状態で移動機能低下の始まりです。ロコモ度2は両脚で20cmの台から立ち上がれないが、30cmの台から立ち上がれる状態で移動機能の低下が進行した状態です。今回新たに加わったロコモ度3は両脚で30cmの台から立ち上がれない状態で、移動機能の低下が進行し社会参加に支障をきたした状態が加わりました。もう一つのロコモ度測定法は歩幅からロコモ度を調べる2ステップテストがあり、最大の歩幅で歩いた2ステップ分を身長で割ったものです。ロコモ度1は2ステップ値が1.1-1,3未満で移動機能低下の始まりです。ロコモ度2は2ステップ値が0.9-1.1未満で移動機能の低下が進行した状態で,ロコモ度3は2ステップ値が0.9未満で、移動機能の低下が進行し社会参加に支障をきたした状態と定義されました。また「ロコモ25」という問診の得点が24点以上とされ、年齢に関わらずこれら3項目のうち、1つでも該当する場合を「ロコモ度3」と判定します。「ロコモ度3」では、自立した生活ができなくなるリスクが非常に高く、何らかの運動器疾患(特に腰部脊柱管狭窄症や変形性膝関節症)の治療が必要になっている可能性があるので、整形外科専門医による診療を勧めるとしていますので心当たりがある場合には整形外科へご相談ください。
参考 ロコモオンライン: https://locomo-joa.jp/

コロナ下で外出自粛で運動不足になり体重増加した方は私だけではない?と思いますが、子供達も例外ではないようです。以前子供のロコモ(運動器機能異常)についてお話ししましたが2018年のスポーツ庁の調査でも体の硬さ(立位体前屈で手指が床に届かない)、バランス感覚の低下(片足立ちの保持ができない)など指摘されていました。これに伴い転倒して両手関節の骨折を生じたりするケースも報告が増えました。(当院でも今まで2人いて両腕にギプス固定行いました)臨床整形外科学会が今年7-8月のコロナ下に行った小中高校生817名のアンケート調査で体力がなくなつた」と回答したのは、小学生で35.3%、中学生で44.1%ヽ高校生で55.1%で、「体重が増加した」と回答したのは、小学生で36.9%、中学生で37.4%、高校生で34.9%という結果でした。痛い部位での回答で最も多い部位は小学生が足・足関節で4割超、中学生と高校生は首、腰で3割を超え、中学生は足。足関節も3割弱ありました。

また、国立成育医療研究センター「コロナ×こどもアンケート」の第1回調査では、テレビやスマホ、ゲームを見ていた「スクリーンタイム」が1日4時間以上の子どもが全体の31%でした。小学生から中学生にかけての成長期は、骨が急速に伸びることで周りの筋肉や腱は常に強い緊張状態にあり、そのために身体の柔軟性が低下しやすく、特に男子に顕著に現れます。これにコロナによる長期休校による運動不足の後、急に運動量が増えたことで、スポーツ以外での外傷も起きています。中高生に一肩こりや腰痛が多いのは、悪い姿勢で長時間、スマホやゲームに熱中することも原因の一つですので、コロナ下にスマホの時間が増加したことの功罪は少なくないと考えます。子供の運動器異常を早期発見するために学校で側弯検診、運動器検診(腰、肘、肩など)が行われていますので異常がある場合は整形外科へ受診してご相談ください。

 

脊髄損傷による四肢の麻痺は治らない疾患と以前は言われて、手術をするのはリハビリテーションを早く行うため、と割り切って脊椎外科医は損傷した脊髄を直すのではなく周りの脊椎を金属で固定する手術を行ってきました。しかし最近再生医療の進歩とともに脊髄損傷の再生医療も研究が進み、実用化されたものや実用化直近のものがあるので紹介します。急性期の脊髄損傷に使用可能であるのが、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)HGF(肝細胞増殖因子)を用いた神経保護法で、受傷後2−3日で使用でき、現在臨床試験中です。亜急性期脊髄損傷における再生医療としてはMSC(ヒト自己骨髄由来関葉系幹細胞由来)の静脈内点滴治療法で札幌医大で201812月から臨床応用(条件・期限付き承認)が始まっています。またiPS細胞由来神経幹細胞の細胞移植は慶應大学で臨床試験最終申請中です。再生医療には高額な費用がかかり、安全性の面でもハードルが高いのですが、脊髄損傷の再生医療は実用化が始まり、脊髄損傷による手足の麻痺が再生医療により改善することは、手術される患者さんにとっても朗報ですし、これから益々注目されている分野です。

膝や股関節の軟骨がすり減って痛みや日常生活に支障をきたす変形性膝関節症や変形性股関節症は日本のみならず世界的にも多い疾患です。世界疾病負担研究のデータを用いて世界195カ国における1990年から2017年の変形性膝・股関節症の疫学的検討が行われた結果、2017年の有病者は約3310万人で新規発症は約1490万人と推計され、1990年より有病率は9.3%、年間発症率は8.2%上昇した、とする報告をしました。国別には米国、サモア、クウェートが高く、北朝鮮、マダガスカルが最も低かったそうです。日本はというと4400-4800万人と推定され北米やアフリカよりも低く、欧州やアジア諸国よりは高いという結果でした。2014年の厚労省国民生活基礎調査では痛みを有する関節症が1560万人と推計されていますので今回の結果はそれよりもかなり高い結果となっていますが2009年の日本での研究ではX線検査による関節症の有病率が2530万人という結果ですのでこちらに近いと考えられます。性別では有病率と発症率ともに女性に多く、有病率年齢とともに上昇しますが、発症率は男女とも60−64才で多い結果でした。高齢化、女性、肥満が危険因子であり、ヘルスケアの改善とともに変形性関節症の早期発見・早期治療が必要であると述べています。変形性関節症の診断は整形外科が専門ですし、治療は症状に応じて減量、運動療法、投薬、関節内注射、装具療法、手術的治療など様々ですので整形外科にご相談ください。

 

参考文献:Ann Rheum Dis. 2020 Jun;79(6):819-828

     : J. Bone. Miner. Metab.,  2009,  27(5),  620