山口経済レポート連載記事 – ページ 6

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山口経済レポート

院長が2013年から山口経済レポート(http://www.ykr.co.jp/index.html)に毎月掲載している過去のコラムを掲載しています。腰痛を中心に様々な整形外科の疾患や情報を発信していますので順次アップしていきます。

よく天気が悪いと関節痛が悪化する、雨が降ると古傷が痛む、という話を聞くと思います。気象や天候が変化すると発症したり、症状が悪化する疾患を気象病と言います。気象病には痛み、めまい、喘息など様々な疾患が含まれます。愛知医科大学学際的痛みセンターの佐藤純先生はその中でも頭痛、肩こり、膝痛、リウマチの関節痛、ケガの後の痛み、線維筋痛症の痛みなど天候の影響を受ける痛みを天気痛と名付けられました。
6,000人のアンケート調査の結果、天気痛のある人は全体の約一割で、慢性痛のある人の25%が天気が悪いと痛みが悪化すると答えたそうです。一方、65才以上の155万人での大規模調査では、関節リウマチ、変形性脊椎症、変形性関節症などの関節痛、腰背部痛で受診した割合を雨が降った日と降らない日で調査して差はなかったと報告した論文が2017年に出ました。
一方、京都大学の寺尾先生らは2万人の関節リウマチ患者の研究で、関節の腫れと痛みは気圧と負の相関がある(気温は関係なし)と報告されています。佐藤先生らは原因として鼓膜の奥にある内耳が気圧のセンサーがあり、そこでの情報が脳に伝わり自律神経を変化させ、交感神経と副交感神経のバランスが崩れて交感神経が活発になりすぎて痛みの神経を刺激したり、血管が過剰に収縮、痙攣して血管周囲の神経を興奮させるためであると考察されています。
予防法としては自律神経のバランスを整える生活、すなわち規則正しい生活リズムで、適度に運動(頸部周囲のストレッチなども有効)して、朝食をとることが重要です

参考文献
佐藤純:天気痛 つらい痛み・不安の原因と治療方法 (光文社新書)
Jena AB, et al. BMJ. 2017;359:j5326.
Terao C, Hashimoto M et al. PLOS ONE published 15 Jan 2014

これも耳慣れない言葉と思いますが、脊柱の安定性には脊柱に直接付着するローカル筋(体幹深層筋)と脊柱から離れた位置から作用するグローバル筋(体幹浅層筋)に分類されます。ローカル筋のスタビライザー機能が低下すると、脊柱が不安定となり、グローバル筋のモビライザー機能の低下が生じ、グローバル筋への過剰な負担が生じると、筋膜や骨への付着部障害が生じます。ローカル筋は脊柱に直接付着するので単関節筋とも言われ、グローバル筋は多関節筋と言われます。脊柱の理想的な運動方法はローカル筋で脊柱を安定させ、グローバル筋による大きな回転モーメントを用いて大きく早い動作を生み出すことです。単関節筋の機能不全による関節の不安定性によって関節障害が発生し、腰椎椎間板や椎間関節障害が生じ、その不安定性を抑制するために多関節筋への負荷によって筋、筋膜、筋付着部に障害が発生します。このような病態はスタビライザーである深部筋が適切に働いていないために生じたもので、これをスタビライザー機能不全症候群と早稲田大学の金岡教授が提唱されました。他にも肩関節インピンジメント症候群や上腕骨外顆炎、大腿内転筋付着部障害、腸脛靱帯炎などもスタビライザー機能不全症候群に分類されます。体幹のローカル筋は腹横筋、内腹斜筋、腰方形筋内側線維、多裂筋、グローバル筋は腹直筋、外腹斜筋、腰方形筋の外側線維などです。体幹トレーニングの方法としてお勧めしたいのが第一段階としてドローインです。腹横筋を意識して、仰向けで息を吐きながら、お腹を限界まで引っ込めた後に、さらに限界まで引っ込めると効果的です。第2段階としてハンドニーがあり、四つ這いから片脚あげ、その後、手のひらを下にして逆側腕を上げ10秒キープして左右で3セット行います。第3段階はエルボーニーで肘と膝をついて手足を上げます。肩から膝が一直線に、片方の足を軽く浮かせ次に反対側の腕を伸ばします。第4段階はバックブリッジで、仰向けで腰を浮かせ肩から膝が一直線になるよう維持して、腰を反らさず、骨盤丸め気味で背中尻をしっかり使って支えます。朝と運動前に行い、慣れるまでは毎日行うことをお勧めします。自分のできるペースで第一段階から初めてみてはいかがでしょうか?

・参考文献

金岡恒治:腰痛の病態別運動療法 体幹筋機能向上プログラム 文公堂

金岡恒治:腰部体幹丸わかりトレーニング ベースボールマガジン社

今回はアスリート(運動選手)の腰痛についてお話しします。早稲田大学教授の金岡先生によると腰痛の機能的評価をすること、すなわちどのような姿勢や動作で腰痛が誘発されるかを問診で把握して、診察所見(誘発テストや圧痛)で病態を推定します。くしゃみ、咳、屈曲動作、骨盤後傾位での座位で腰痛が誘発される場合には椎間板性腰痛を疑います。MRIでの椎間板の突出や信号変化や椎間板ブロックで腰痛が消失するか?で診断します。腰椎の前弯が強く、骨盤前傾、腰椎伸展時に腰痛が誘発される場合には椎間関節性腰痛を疑います。腰椎を伸展、回旋して疼痛を誘発するケンプサイン陽性例や椎間板ブロックで診断を確定します。仙腸関節性腰痛は片脚に体重負荷がかかるサッカー、ホッケー、フェンシング、スケートなどのアスリートには比較的多いとされ、次に出産後の女性に多いとされます。仙腸関節部を指一本で指すようなワンフィンガーテストが陽性であり誘発テストではニュートンテスト、ゲースレンテストなどがあります。疼痛が傍脊柱菌に沿ってあり、運動時に誘発されれば筋筋膜性、筋付着部性腰痛を疑いますが、外腹斜筋、内腹斜筋、腹直筋に限局した圧痛であれば同部の肉離れも発生率が増えているそうです。腰椎の伸展動作を繰り返すことで隣接する後方の棘突起がぶつかりあって疼痛を生じる棘突起インピンジメント症候群なども注意が必要です。屈曲負荷が増加すると椎間板内圧が増加して腰椎椎間板ヘルニアになり腰痛のみでなく、下肢痛も生じるようになるとストレートレッグレイジングテスト陽性や知覚障害、筋力低下などが出現し、MRIが必要になります。伸展負荷が増加すると腰椎疲労骨折(腰椎分離症)へ移行することがあり、アスリートにとって競技からの長期離脱を余儀なくされます。このような診断に基づいて治療方針を決定し、リハビリメニューを作成します。特にアスリートの腰痛には体幹の安定性が重要で深部筋を鍛えることが必要となりますが、最近では高齢者の慢性腰痛にも深部筋を鍛えることは有用とされているので次回お話しします。

イップスという言葉を最近よく聞くことがありますが、ご存知でしょうか?子犬が吠える、という意味で集中すべき場面において、プレッシャーのために極度に緊張することが原因で震えや硬直を起こしてプレイのミスを誘発することです。1930年代に活躍したプロゴルファーがこの症状によって引退を余儀なくされたことで知られるようになりました。イップスはスポーツでは野球、ゴルフが多いのですが、そのほかのスポーツ全般と武道にも生じます。特に野球では正確なコントロールが求められる投手、内野手に多く、四球や暴投などのトラウマからイップスに陥ることが多いようです。武道では弓道、アーチェリーなど弓を引いて弦を離せなくなったり(もたれ)、弓を引いて矢をすぐに発射してしまう(早気)症状が有名です。イップスを生じやすいのは真面目で責任感が強く、心優しい選手ほど生じやすく、気を使うが、普段はあまり緊張しない人が多く、逆に緊張しやすい人はならないことが多いです。医師へのアンケート調査でスポーツで51%が経験したという報告もありますので決して稀な症状ではありません。治療としては失敗した場面を直視して、徐々に成功体験を積み重ねること、医学的には慢性腰痛でもエビデンスのある認知行動療法になります。症状のきっかけによって考え方が動かされ、感情や行動が出てくる(認知再構成)ので、その考え方を変化させることで結果として出ている症状(行動や感情)へ介入して、再発を予防します。イップスになって、今まで当然できていたことが出来なくなり、周りの理解が得られないことが一番辛いことでありますが、これには本人がイップスになったことを自覚して(あるいは周囲のコーチなどが把握して)周囲に打ち明けたり、周囲の理解と手助けが重要になります。スポーツの場面だけでなく、普段できていた仕事、手技が出来ない場合に一人で悩まずに、イップスではないか?という意識を持っていただければ幸いです。

整形外科医として運動器(腰痛、頚部痛、関節痛、神経痛など)の痛みのある患者さんと接していて痛みをなんとか治療しようと日々過ごしていますが、中にはなかなか痛みが取れない方に遭遇すると自分の力不足と無力感に苛まれる時があります。そんな時にこの言葉に出会いましたので紹介します。詩人のキーツが発見し、精神科医ピオンにより再発見された言葉で、精神科医の帚木蓬生(ははきぎほうせい)氏の著書(朝日選書)のタイトルで、副題に答えの出ない事態に耐える力とありました。目の前にいる痛みを訴える患者さんに対して医師は問診、診察、画像所見などを駆使して痛みの原因を特定し、治療を提供しようとしますが、このようにできるだけ早く回答を出すことが、ポジティブ・ケイパビリティ(問題解決能力)です。一方でどうしても解決できないときに持ちこたえていく能力がネガティブ・ケイパビリティです。この著書の中に、治療上大切なことは今生じていることを手を加えずに持ちこたえることである、数週間、数ヶ月、数年と治療を続けるうちに何とかなるのが日薬で、患者さんに主治医がしっかり見守っている眼があると伝えることが目薬、あなたの苦労は私がちゃんと知っていますという主治医がいると耐え続けられる、といった内容は痛みの治療を行う上で大いに参考になりました。プラセボ効果についても、ラテン語で「私を喜ばす」という意味であり、プラセボによる鎮痛効果は前頭前野が活性化され、脳内麻薬のエンドルフィンが放出して痛みを和らげるので、体内の自然治癒の仕組みに良い影響を与えるので、プラセボ効果は医学においてもむしろ肯定的に捉えられるようになってきました。医者が患者に処方できる最大の薬はその人の人格である、ということも記されており、患者さんの訴えを真摯に受け止め、(時には早急な答えを出さないで)痛みに寄りそうことも必要であることを痛感しました。

-学校安全WebのHPから-

以前は運動会や体育祭で組体操が行われてきましたが、2014年に大阪府八尾で起こった10段ピラミッドの崩壊動画がテレビのニュースなどで流されたことが契機となり、マスコミが一斉に組体操の危険性を取り上げたことから注目されるようになりました。最近の朝日新聞の一面に組体操を中止する小中学校が増加していることや、日本スポーツ振興センターの災害共済給付の記録から組体操の事故は2015年に約8000件あり、うち4分の1が骨折であったこと、1969年以降から9人が死亡、92人が生涯の残るけがを負ったとする記事が掲載されたので、日本スポーツ振興センターの学校安全WebというHPを調べると、「体育的行事における事故防止事例集」で詳細に検討され、対策も報告されていました。平成27年の学校の管理下における事故災害で種目別には徒競走(リレー、障害物競走を含む)が 36.5%と一番多く、騎馬戦等対 戦型(棒倒し、棒引き、綱引きなどを含む)の種目が 19.7%で2番目に多く、組体操、むかで競走、二人三脚や縄跳びなども3%から5%程度発生しており、組体操が一番事故が生じやすい、というわけではありませんでした。運動会、体育祭中の事故は5.2%で、むしろ練習中に生じることが多く。組体操競技別にはタワー16%、ピラミッド13%、サボテン7,5%、飛行機2%、倒立15%、肩車8%であり、タワー、ピラミッドと同様に倒立も事故が多いという結果でした。組体操の安定度を高めるためには、土台の正しい姿勢は体を真っ直ぐに立てること 、土台と乗り手の結合部分 はしっかりと固定させること、組体操実施時は「顔を上げる」「声を掛け合う」こと、指導者自らが体験すること、平面ピラミッドに関しては、小学校では3段、中学校以上で4段までが限界であるなどの対策が報告されていました。またフローチャートとして、専門的知識、指導力を持った指導者がいて十分な指導時間が取れて、組体操に向けた教員の意識が全体的に高い場合にのみ従来の組体操でも良いが、それ以外では新しいスタイルの組体操を指導するように提言してありました。準備期間が短いことも生徒、先生側も負担になっていると思いますが、事故が生じるような危険なことは止めてしまえ、と組体操自体を否定するのではなく、安全性を保てるような工夫をして組体操を次世代につなげていって欲しいと願っています。

-子供の首が回らない時、急性斜頸の原因-

前回高齢者での急性頚部痛を紹介しましたが、今回は小児の急性斜頸(首が屈曲、側屈、回旋した状態)についてお話しします。小児で首が回らない、という症状で受診されます。大人の場合は朝起きたら首が回らない、ということが多いのですが、小児は誘引なく生じたり、遊んでいる間に(縄跳びをしていて、というケースもありました)生じることが多いです。まず問診で風邪などで高熱が出ていたことがないか?(炎症性、感染性の疾患を疑います)、転落など外傷がないか?を聞いて、頚椎の前後面、側面、開口位のX線写真を撮影します。開口位とは口を大きく開けて正面から第1頸椎と第2頚椎の関節環軸関節を撮影して関節のすきまの左右差を確認します。この際に左右差があったものを環軸関節回旋位固定と診断します。第2頚椎(軸椎)の歯突起が第1頚椎の後方中央に位置せず回旋した状態で固定される状態で、原因は歯突起の周囲の靭帯(環椎横靭帯と翼状靭帯)が緊張して歯突起が亜脱臼して動かなくなってしまう現象が起こります。正確な診断はCTで行います。治療は一般的には消炎鎮痛剤を併用して、頚椎カラー固定を行い、仰向けでなるべく寝てもらうよう生活指導を行います。数日から1週間で良くなることがほとんどですが、痛くて仰向けで安静に寝れない場合や、改善傾向がない場合は脊椎専門医がいる総合病院に紹介して入院のうえ、頚椎持続牽引を行うこともあります。難治例や重症例ではハローベストというジャケット式の装具を装着し頭蓋骨に皮膚の上から特殊な スクリューで固定するケースや全身麻酔下に徒手整復、手術(固定術)を行う場合もあります(非常に稀です)。当院では、高熱を伴い感染性疾患を疑う場合や、転落などの明らかな外傷を疑うケース以外(これがほとんどですが)は徒手整復術を試みます。ベッドに仰向けて寝ることができ、頸がほぼまっすぐ向くことができる場合に限って徒手整復を行います。まず、ベッドから頭を出し、頚椎をしっかり把持して愛護的に牽引を加えながら顎を引いてから頸部を伸展させ、痛みを確認しながら回旋も軽度加えながらさらに伸展させ、これを数回繰り返します。その後座って斜頸が改善したことを確認しますが、座位になると徐々に斜頸に戻る場合がほとんどですので、座位で姿勢指導と自宅で自分でできるセルフエクササイズ(マッケンジー法)を指導します(理学療法士に指導してもらいます)。この方が頚椎カラーのみを処方するより早く改善することが多いです。最近特に問題になっているのが姿勢不良による肩こり(スマホやゲームなどが原因の可能性が指摘されています)が低年齢化していますので、この疾患も普段の姿勢と全く関連性がないわけではないと考えます。子供が急に頸が回らない、という場合にできるだけ整形外科専門医を受診することをお勧めします。

-急性頚部痛(急に首が回らない)の原因で注意すべき疾患-

ぎっくり腰と同じように急に首が痛くて動かせない、という経験をお持ちの方は少なくない、と思います。多くはいわゆる寝違えで、朝起床後首が痛くて回らない(後方に伸展できない、左右に回旋できないことが多い)、慢性的な肩こりや姿勢不良や睡眠中の頚部の無理な姿勢などが原因である場合が多いのですが、その中でも私も最近経験したクラウン・デンス症候群について紹介します。この聞きなれない言葉は、1985年に報告され、第1頸椎と第2頸椎の環軸関節の十字靭帯に生じる偽痛風(ピロリン酸カルシウム結晶沈着症)です。CTで第2頸椎歯突起の後方を取り囲む半円状の石灰沈着がさながら王冠に似ていることから名付けられたものと考えられます。ちなみに痛風は尿酸ナトリウム結晶が関節内に沈着して生じます。高齢女性に多く、発熱も38度以上や白血球も高値になることも多く、疼痛の強さと血液検査からは化膿性脊椎炎ではないか?と疑うこともあります。X線写真では診断が難しいのでMRIやCT検査が必要ですが、通常MRI検査の方が有用なのですが、このクラウン・デンス症候群に限っては確定診断はCTが最も有用です。環軸関節に平行なCT画像で第2頸椎後方の十字靭帯に沿って淡い(あるいは明らかにはっきりした)石灰沈着が認められれば診断は確定です。治療は非ステロイド性消炎鎮痛剤がよく効きますが、腎臓が悪かったり、十二指腸潰瘍のある方にはステロイド剤を使用(あるいは併用)することもあります。通常は1週間以内に痛みも可動域制限も良くなります。頻度は少ないのですが同じような疾患で(急性)石灰沈着性頸長筋腱炎があり、こちらも急性の頚部痛、可動域制限に発熱、白血球増加があり、嚥下痛が加わるとこちらをより疑います。環軸関節前方に石灰地沈着を生じるのでMRIでの信号変化でも病変の部位は確認できます。

先日下関でフットケア講演会があり「整形外科クリニックで取り組むフットケア」という講演をしました。そもそもフットケアって何?と思われる方が多いと思いますので解説するとともに当院での取り組みを紹介します。

2003年にフットケア学会が発足し、2008年からフットケア指導士認定制度を作ってフットケア指導士を養成し、各地で研究会や講習会を行って普及に努めています。フットケアとは「少しでも長く歩ける足を守り、足から全身を診ること」であり、足の健康維持のためのフットケア(足の観察、保温、保湿など)、足病変のリスクのある足に対する予防的フットケア(靴ずれ、角質肥厚、胼胝、鶏眼の処置)、足病変軽症の場合に行う医療的フットケア(薬物療法、炭酸泉浴など)、中等度から重度の足病変に対する医療的フットケア(バイパス手術や切断術など手術的治療)、対症療法的フットケア(疼痛コントロール、悪化防止)の5段階に体系化されています。足病変とは足のびらん、水泡、潰瘍、感染症、壊疽、変形などを言いますが、糖尿病や閉塞性動脈硬化症を有する場合には足病変を放置しておくと歩行困難となったり、重篤化すると切断や死に至ることもあるので、早期発見、早期治療が重要です。フットケアは医師(内科、血管外科、整形外科、形成外科、皮膚科)、看護師、理学療法士、義肢装具士など多職種で連携する必要がありますが、その中でフットケア指導士は中心的な役目を担いますが、実際には看護師が多数を占めます。整形外科医は以前から運動器の足病変を治療してきました。急性疾患として骨折・脱臼・捻挫(靭帯損傷)、糖尿病性壊疽や足の虚血による切断、慢性疾患として巻き爪、胼胝、鶏眼、変形性足関節症、外反母趾、骨髄炎などの感染、先天性疾患として内反足、扁平足などがあります。私は2012年に山口県実践フットケア研究会に参加してから、フットケアのことを知り、当院でもフットケアに対応できるように理学療法士の林と私がフットケア指導士を取得しました。閉塞性動脈硬化症は3%の頻度ですが、糖尿病患者で5-10%、心血管疾患患者、透析患者では10-20%と頻度が高くなります。一方腰部脊柱管狭窄症の頻度が男女とも10%で推定600万人と言われており、閉塞性動脈硬化症の合併が13-26%あるとされます。当院を受診される下肢痛、しびれ、冷感や間欠跛行(歩行すると下肢痛が強くなり、立ち止まって休むとまた歩けますがそれを繰り返すこと)などの症状の患者さんにおける閉塞性動脈硬化症の頻度と腰部脊柱管狭窄症の合併率を調査しました。血圧脈波検査装置でABI(足関節上腕血圧比)を調べて下肢の動脈の狭窄や閉塞の程度を評価します。0.9以下は閉塞性動脈硬化症(または末梢動脈疾患)と診断して軽症例は薬物療法、中等度から重症例は血管外科に紹介して造影CT検査で下肢動脈の狭窄・閉塞の評価をして手術(バルーンやステントなどの血管内治療かバイパス術など)になることもあります。下肢しびれ、疼痛で2013年4月から2015年9月までで当院を受診された50才以上の924例(男性359例、女性565令、平均年齢71才)の患者さんで閉塞性動脈硬化症と診断したのは55例(6.3%、平均年齢76才)でした。重症度では無症状(疼痛、しびれのみ)36例、間欠跛行18例、安静時疼痛1例で、血管外科紹介が18例(33%)、うち手術を要したのが4例(7%)でした。心血管症状、糖尿病の合併は40例75%、腰部脊柱管狭窄症が23例(42%で)で、脊椎外科紹介で手術されたのが1例(2%)という結果でした。この結果より整形外科クリニックを受診する患者さんで閉塞性動脈硬化症の患者さんを早期発見するのに血圧脈波検査装置でのABI測定は有用でした。また当院での巻き爪治療については以前から爪に2ヶ所穴を開けてマチワイヤーという0.4-0.5mmのワイヤを通して矯正していますが、矯正力は強いのですが、爪を少し長めに伸ばさないとワイヤーがかけれないので、最近では3TO(VHO)というワイヤーを爪に穴を開けずに矯正する方法を行なっています。理学療法(リハビリテーション)ではマッケンジー法に基づくメカニカルな評価、治療を行なっていますが、足の痛みに対しては、足底板療法も行なっています。

当院で行うフットケアは、フットケア指導士の二人を中心として足病変の診断、治療を行なっていますが、一クリニックでできることには限界もあり、できることをコツコツ積み重ねていきますが、重症例(下肢虚血高度例など)は速やかに山口済生会病院の血管外科やフットケア外来に紹介して病診連携を行っています。

今回はヒップスパイン症候群について解説します。聞きなれない言葉、とお思いでしょうが、腰の骨を支えるのが骨盤で骨盤を支えるのが股関節であるので両者は切っても切れない関係にあり、一方の病態が他方の病態に影響します。

この名称は1983年OffierskiとMacnabが、提唱した概念です。股関節、脊椎の両方に変形性変化を認めるが病態の主因はいずれか一方であるsimple type、股関節、脊椎の両方に変形性変化を認め、その両方が病態に関与するcomplex type、股関節、脊椎の病態が互いに影響しあっているsecondary type、両者に原因があることを知らずに誤った治療がなされたmisdiagnosed typeの4 typeがあります。股関節痛および脊椎痛の診断として、変形性股関節症、疲労骨折、股関節の骨壊死、関節唇損傷、椎間板ヘルニアと神経圧迫、脊椎管狭窄症、仙腸関節機能障害などがあり、痛みや動作困難の原因探索の際、脊椎と腰の両方に着目することにより誤診の潜在的リスクを減らすことができ、両方の部位で起きている状態を管理することが持続する症状の改善につながる、という米国の論文もあります。3cm以上の脚長差を有する症例では、腰椎側弯頻度は有意に増加し、短下肢側へ骨盤は傾斜し、腰椎側弯凸側も短下肢側へ向かいます。それにより骨盤の回旋障害が生じ代償性に腰椎の前弯や側弯が生じます。また、股関節屈曲拘縮では骨盤の前傾により腰椎前弯が増強し、腰椎椎間関節への負荷の増加に伴う椎間孔の狭小化により、腰痛や神経根症状が生じることがあるので注意が必要です。対策の一つとして、当院では腰痛があるときに、必ず股関節を含むよう撮像しています。