山口経済レポート連載記事 – ページ 9

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山口経済レポート

院長が2013年から山口経済レポート(http://www.ykr.co.jp/index.html)に毎月掲載している過去のコラムを掲載しています。腰痛を中心に様々な整形外科の疾患や情報を発信していますので順次アップしていきます。

腰痛の患者さんは重労働者に多いと思っておられる方も多いようですが、実はデスクワークの方も多いのです。日本の疫学調査では職種別腰痛有訴率は運輸71-74%、清掃69%、介護63&、看護46-65%、事務42-49%,建設29%という大規模研究があります。デスクワークの腰痛は長時間座位の姿勢(定期的に姿勢を変えないこと)が原因と考えられます。Calliietの研究で腰椎椎間板内圧は座位>立位>臥位の順に高く、他の研究では座位のうち、あぐらが最も椎間板内圧が高いので、特に冬場のこたつでの作業などは禁物です。また長時間座位は心血管、糖尿病や若年死亡など多くの健康リスクを高めることが分かっており、成人で週2.5時間の中等度の運動が推奨されていますが、80%は実行できていないのが現状です。最新の研究(Clinical Journal of the American Society of Nephrology)で1時間ごとに2分間、立ち上がって歩くことで死亡リスクが33%低下したという結果が出ました。腰痛もこれにならって休憩することも推奨されますが、もう二点注目すべきは座位姿勢と椅子選びです。いくら休憩をこまめに入れても普段の座位姿勢が悪ければ腰痛の解消にはなりません。また椅子の選択も重要になります。座位姿勢は椅子の後面にできるだけ座り、座面は沈み込まないでむしろやや上がっていたほうが骨盤が立つ(骨盤が前傾するペルビックサポート)効果があり、腰椎の前弯が保てます。実際の椅子の背面には腰椎前弯を保つ(ランバーサポート)効果を有するものは少ないので、骨盤の上縁の位置に後ろにクッションやタオルを置いたり、車の運転や新幹線、飛行機での長時間座位にも有効ですので試してみてください。 次回は椅子選びついてお話しします。

帯状疱疹は子供の時にかかった「みずぼうそう」が治った後もヘルペスウィルスが体内の神経節に潜んでおり、加齢やストレス、過労が引き金になって免疫力が低下した時に、潜んでいたウィルスが神経をつたわって皮膚に到達して生じる皮膚疾患です。50〜70代に発症しますが、ストレスや疲労が引き金で若い方にも発症します。頭部・顔面や肋間神経や片側上肢に沿って発症することが多いのですが、実はそれぞれ17%、30%であり、腰部・腹部にも20%、臀部・片側下肢にも17%発症しますので腰痛と決して無縁ではないのです。赤い斑点があれば(医師にとっては)診断は比較的容易ですが、数日から1週間は潜伏期があり、その間は神経の走行に沿って違和感やぴりぴりする感じがあるだけですので、確定診断は難しい場合もあります。進行すると水ぶくれやただれ、かさぶたができ、治った後も後遺症として、電撃痛、キリで刺されるような痛みや夜間眠れないほどの痛みなどといった帯状疱疹後神経痛(神経障害性疼痛と言います)が残る場合があり、治療には時間を要し、難治性の場合はペインクリニックで神経ブロックなども必要になる場合もあるので、早期発見早期治療が重要です。早期であれば抗ウィルス薬のみで治癒することが多いのですが、水ぶくれになり、神経痛が残った場合には抗うつ薬であるプレガバリンなどが第一選択薬として使用されます。患部は冷やさずに温めて血行をよくします。

しかしながら皮膚疾患があれば患者さんも皮膚科に受診されますが、潜伏期には腰臀部,下肢痛で整形外科に初診で受診されるケースもあります。通常の腰痛と異なるのは腰の動きに関連性がないこと、皮膚がぴりぴりする刺激症状を有することなどありますが、早期発見のポイントは、帯状疱疹の可能性を念頭に置いて、症状のある部位の皮膚を観察し、患者さんにも注意を促し、赤い斑点がでたら皮膚科をすぐに受診するようお話ししておくことですが、座骨神経痛と診断がまぎらわしい場合もあり、私も患者さんから後で帯状疱疹でした、と教えられて、申し訳ないと思うことがありました。

腰椎椎間板ヘルニアの治療は安静、投薬、ブロック、手術に分けられます。手術的治療については顕微鏡、内視鏡を使用して低侵襲な治療が行われているのが現状です。顕微鏡での手術も内視鏡での手術も熟練した脊椎外科医が行えば安全で低侵襲の治療ですが、最近では内視鏡での手術件数が増加傾向にありますが術者によってラーニングカーブが異なったり、空間認知能力に差があったりするので、一長一短があります。私も顕微鏡と内視鏡手術の両者を経験しましたが、やはり顕微鏡の方が性にあっていました。両者とも神経に対する侵襲という点ではほぼ同じですが、内視鏡手術の方が皮切が小さく、起きるのがやや早いということで、患者さんもネットで調べて内視鏡手術を選択される方も増えてきています。最近では経皮的内視鏡下椎間板ヘルニア摘出術(PED:Percutaneous Endoscopic Discectomy)という、より低侵襲の内視鏡も施設を限定して行われていますので、患者さんにとっては手術方法の選択肢が増えることはいいことですが、インターネットなどの情報に惑わされすぎないように注意する必要があります。(まずは自分のかかっている整形外科医と相談することをお勧めします)

最後に日本が主導の将来有望な治療を紹介すると、東海大学持田教授らの椎間板髄核細胞再生治療、山梨大学整形外科波呂教授らのMMP-7という椎間板内分解酵素による椎間板内注入療法(2013年米国で臨床治験開始されています)、浜松医科大学松山教授らのコンドロイチナーゼABCによる椎間板内治療などが注目されています。いずれも研究、臨床治験の段階ですので結果が出るのは少し先ですが、近い将来このような椎間板内治療(局所麻酔で行うことが可能です)により、腰椎椎間板ヘルニア発症初期から積極的な根治治療が可能になる時代が早くくることを期待します。

腰椎椎間板ヘルニアは従来、職業上の負荷、喫煙、スポーツなどの環境因子が重要であるとされてきました。しかしながら一卵性双生児の腰椎椎間板の変性が偶然の一致以上に極めて類似していたり、家族集積性を証明した論文がでてから、遺伝性素因が最も重要であることがわかってきました。

1998年SpineというジャーナルにビタミンD受容体遺伝子が椎間板ヘルニアの疾患関連遺伝子である可能性をはじめて報告されました。また腰椎椎間板ヘルニアは特定の遺伝子で発症するのではなく、いくつかの遺伝子の関与する遺伝子多型といわれています。富山大学整形外科や慶応大学、京都府立医科大学、理化学研究所などの腰椎椎間板ヘルニア遺伝子研究グループが約500例の腰椎椎間板ヘルニアの遺伝子解析を行い2005年から2013年に7つの椎間板ヘルニア感受性遺伝子を発見しています。この解析手法はある特定の遺伝子を持っていると持っていない人と比べてどの程度腰椎椎間板ヘルニアになりやすいかを統計学的に検討したものであり、1.34倍から1.70倍で決して高いとも言えません(オッズ比といいます)。腰椎椎間板ヘルニアの遺伝子研究はまだ解明されたとはいえず、今後全遺伝子を対象として網羅的な解析がなされることが期待されます。

慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)は近年注目されてる疾患概念で、腎機能の低下に伴って血管の石灰化を介して心血管リスクが高まるだけでなく、骨・ミネラル代謝異常(CKD—MBD)により骨折リスクも増大することも注目されています。定義は尿タンパク陽性(尿検査)、糸球体濾過率が60ml/分/1.73m2未満(血液検査の腎機能検査で簡易的にeGFRとして表示)が3ヶ月以上持続する病態であり、わが国の患者数は1330万人と推定され70代で30%、80代で40%と高齢になるほど増加しステージが進んでGFRが15未満になると末期腎不全となり血液透析の必要性が高くなります。高血圧、糖尿病の生活習慣病の改善が治療につながり、消炎鎮痛剤(痛み止め)の長期投与によって増悪することからも内科医だけでなく、整形外科医としても注意が必要な疾患です。

骨粗鬆症と慢性腎臓病は加齢とともに発症が増加し、高齢者では両疾患の併発率が高いので相互に増悪しあう関係にあります。50才以上の閉経女性ではエストロゲンホルモンの欠乏により海面骨の骨吸収が亢進し,骨からカルシウムとリンの放出が増加することで血中の副甲状腺ホルモンが低下し、血中のリンが上昇して腎機能を悪化させることが明らかになりました。この時点では脊椎骨折が生じやすい状態といえますが、さらに腎機能が悪化すると血中の副甲状腺ホルモンが上昇して皮質骨の骨吸収が促進されて大腿骨頚部骨折が生じやすくなります。さらにCKDの骨病変には特殊な尿毒症性骨粗鬆症という特殊な病態も含まれることから、今後病態別の治療を行うことが求められます。CKDを伴う骨粗鬆症の治療についてはビタミンDが不足しないように活性型ビタミンD3製剤を投与する必要がありますが、その他の治療薬も含めて腎機能が低下しているので投与量やカルシウムの血中濃度に注意が必要です。また長期透析に伴って透析の長期化でベータ2ミクログロブリンが蓄積されるとアミロイドが形成され脊椎に沈着すると脊柱管狭窄や骨破壊による破壊性脊椎関節症が生じます。破壊性脊椎関節症には椎体終板(椎間板の近接した部位)から発症して全周性に広がり椎間不安定性が生じる椎体終板発症型と椎間関節の骨浸食、破壊により後方要素が破綻して椎間不安定性が出現する椎間関節発症型があります。透析5年以上の検討では破壊性脊椎関節症は頚椎で78%、腰椎で88%と効率に出現し、頚椎の環軸椎(第1、2頚椎)の骨嚢腫が20−30%に出現し、進行すると脊椎の不安定性、麻痺により手術が必要となり、通常の脊椎手術より難易度は高く、骨量や骨質の管理や内科医との協力による厳密な全身状態の管理が必要になります。

腰痛の原因の中でも比較的多い高齢者の骨粗鬆症(による脊椎骨折)についてのお話です。以前は骨粗鬆症の危険因子の一つにやせすぎや急激な体重減少(無理なダイエットなども含む)があり、やせすぎをチェックする指標として広くBMI(Body mass index)が普及しています。これは体重[kg]÷(身長[m]×身長[m])で計算され、BMI18.5未満がやせすぎで、骨粗鬆症のリスクが高いと言われていましたが、さらに今回紹介するのは、閉経後の女性に関して年齢と体重で骨粗鬆症の危険度がわかる評価法で、それがFOSTA(Female Osteoporosis Self Assessment Tool for Asia)です。(体重(kg)-年齢(歳))×0.2での結果より、マイナス4未満:危険度が高い、マイナス4~マイナス1未満:危険度が中等度、マイナス1未満:危険度が低い という判定がでますので、是非利用してみてください。ここで危険度が中等度以上であれば、骨密度の測定をお勧めします。骨密度の測定には超音波(踵で測ります)、X線写真(MD法という両手で測ります)、二重光線エネルギーX線検査装置(略してDEXAといい、前腕、脊椎、大腿骨頚部)などがありますが、やはり一番データがしっかりしているのはDEXAの脊椎,股関節の骨密度です。調べた値がYAM(young adult mean)若い時のピークの骨密度)の80%異常であれば正常、70%以上80%未満であれば骨量減少、70%未満であれば骨粗鬆症と定義され治療が推奨されますが、骨量減少の患者さんは骨粗鬆症治療は慎重に経過観察だったのですが、こちらも近年では(骨粗鬆症による)骨折の既往、両親の大腿骨頚部骨折の既往、関節リウマチ、ステロイド治療歴、現在の喫煙、一日1.5合以上のアルコール摂取などがある場合は積極的に治療を開始することが推奨されています。

一方、今後10年で(骨粗鬆症性)骨折をおこす危険性がわかる診断ツールがFRAX(fracture risk assessment tool)です。WHOが開発し、各国語に翻訳されている画期的な骨折のリスク評価法です。年齢、性別、身長,体重、骨折歴、両親の大腿骨近位部骨折歴、現在の喫煙の有無、ステロイド服用の有無、関節リウマチの有無、I型糖尿病、甲状腺機能亢進症、45歳未満の早期閉経など骨粗しょう症を招く病気の有無、ビール換算で毎日コップ3杯以上のアルコールを飲酒するかどうか、大腿骨頸部の骨密度を入力すると今後10年間で脊椎骨折と大腿骨頚部骨折の発生頻度が判明します。DEXAで骨量減少にあてはまり、FRAXが15%以上であれば骨粗鬆症治療を開始すべきであると我が国の骨粗鬆症ガイドラインでも推奨しています。骨密度を測らなくてもFRAXの計算は可能ですのでこちらはHP(http://www.shef.ac.uk/FRAX/tool.aspx?country=3)からアクセスできます。

最近少しづつ認知されてきたこの言葉ですが、どのくらいの方がご存知でしょうか?

2014.3.23 山口県健康づくりセンターで開催された健康づくり県民公開講座 学んで笑って健康づくり講座 で私が講演をしましたが、800名収容の会場は満席に近く、ロコモへの関心をうかがい知りましたので、その講演内容をお伝えすることで、ロコモについて知って頂ければ幸いです。

〜自分の足で一生 歩いていくために〜 さあ、はじめよう ロコモティブシンドローム予防

日本整形外科学会によるインターネット調査ではロコモの認知度は平成24年度で 17.3%、平成25年度で26.6%であり、厚労省や日本整形外科学会は平成34年度までに80%の認知度を目指しています。会場でもロコモの認知度は3割程度でした。ロコモとはロコモティブシンドローム(運動器症候群)の略で、主に加齢による運動器の障害のため、移動能力の低下をきたして、要介護になっていたり、要介護になる危険の高い状態のことをいいます。先進国の高齢社会(65才以上の割合が7%以上)から高齢化社会(14%)になるのにフランスでは115年、イギリスでは47年かかったのに日本では24年であり他に類を見ない速さです。ちなみに山口県での65才以上の高齢者は41万8000人で全国5位で,100才以上は624人です。要介護者はH24には500万人を超えるとされ、一方でロコモ予備軍もネット調査で4700万人と推測されており、メタボとメタボ予備軍をあわせた1980万人を凌駕する数です。

運動器症候群の運動器とは身体活動を担う筋・骨格・神経系の総称であり、筋肉、腱、靭帯、骨、関節、神経などの身体運動に関わるいろいろな組織・器官のことです。呼吸器、循環器、消化器といった内蔵を支えるいわば車のエンジンやタイヤの役割に相当します。運動器の障害は生命の危険に至ることが 少なく、関心は高くなかった運動器に痛みや支障が発生してから、その大切さに気づくのが実状であり、自己の『自立と尊厳を支えている』のが運動器なのです。厚労省国民生活基礎調査 では全国民の有訴のうち、男女とも腰痛と肩凝りが最も多く、次いで関節痛です。皆さんは要支援・要介護状態の要因の第1位は転倒・骨折、関節疾患による「運動器の障害」だということをご存知ですか?

ここでロコモの原因となる3大疾病は腰部脊柱管窄症、変形性膝関節症、骨粗鬆症による骨脆弱性骨折です。健康な状態から要支援、要介護に至るまで,移動能力はひそかに衰えていきます。運動習慣のない生活ややせ過ぎ,肥満も運動器の障害の原因となり、運動器の痛みを放置しておくと重篤化しますので、ロコモをほっておくと・・・気づいたときにはもう要介護という状態になっている可能性があります。私も実は変形性膝関節症になっています。

では、ロコモの予防法はないのでしょうか?それがロコトレです。その前にまずはロコモの診断をする必要があります。

1)片脚立ちで靴下がはけない
2)家の中でつまずいたり滑ったりする
3)階段を上るのに手すりが必要である
4)横断歩道を青信号で渡りきれない
5)15分くらい続けて歩けない
6)2kg程度の買い物(1リットルの牛乳パック2個程度)をして持ち帰るのが困難である
7)家の中のやや重い仕事(掃除機の使用、布団の上げ下ろしなど)が困難である

上記の7つの項目のうちひとつでも当てはまればロコモが疑われます。 ロコトレの意義は運動器障害がある人もそのレベルに応じてでき、、自分でできる、自宅でもできる、特別な器具を必要としないことが特徴です。 トレーニングする前に姿勢とお腹に力を入れることを意識しましょう!(腹横筋を意識するにへそのした丹田を押さえたり、肛門を締めるのも効果があります)

ロコトレ1は片脚立ちです。ダイナミックフラミンゴ療法ともいいます 1分間片足立ち3セット行います。机や平行棒につかまりながら行ってください。股関節を持ち上げる腸腰筋、その他大腿四頭筋、腰背筋を意識します 転倒予防にも有効です。あまり前屈みにならないよう注意しましょう。

ロコトレ2 スクワットです。肩幅より足幅を広めにとりつま先は30度ひらいてゆっくり5~6回1日3セット股関節、膝、足関節を連動しておしりをひくように体をしずめます。

その他カーフレイズ(つま先立ち)、フロントランジ(片脚を一歩前に出して腰を深く下げる)もあります。 ロコモの予防・対策6か条として

1.まずは姿勢を見直す!
2.小まめにからだを動かす!
3.小さな痛みも見逃さない!
4.食事はからだ作りの基本!
5.ストレッチはゆっくりと!
6.スポーツ量は加減も大切!

があげられますので、無理しないレベルから始められるとよいでしょう。 ロコモ,ロコモ予備軍の方、ロコトレ,いつから始めますか、やるなら・・・今でしょ!! ご清聴ありがとうございました。

-骨粗鬆症リエゾサービス-

高齢者の腰痛の原因として頻度の高い骨粗鬆症性脊椎骨折ですが、今回は骨粗鬆症性骨折の中で大腿骨近位部骨折の話をします。大腿骨近位部骨折は手術しないと寝たきりの原因になる最たる疾患ですが、わが国の大腿骨近位部骨折の患者数は1987年に年間約5万3,200人でしたが、2007年には約14万8,100人となり2.8倍に達しました。また一度大腿骨近位部を骨折した患者さんが再び同じ部位を骨折する危険性は平均で4倍にもなります。近年欧米では骨粗鬆症治療薬の普及により大腿骨近位部骨折が減少傾向にあるのですが、残念ながら先進国の中で日本だけは減少せず増加傾向にあります。これは骨折入院後の骨粗鬆症治療継続率が19%しかないということが原因といえます。年齢とともに骨粗鬆症性骨折が加速度的に増えて一度受傷すると再受傷をおこしやすいことを、骨折のドミノ倒しといいますが、これを防止するために考えられたのが医療連携によって防ぐ、という考え方で、骨粗鬆症リエゾンサービスといいます。これは1990年代後半に英国で生まれたシステムで大腿骨近位部骨折患者の包括的なケアを行う仕組みとしてスタートしました。病院の整形外科で入院治療になった場合でも、開業医による外来治療に移行した場合でも、病院医師や開業医と情報を交換・共有し、薬物治療、転倒リスクの評価、運動や生活習慣の改善プログラムの提示など、次の骨折を防ぐ対策につなげることに貢献しました。

日本でも骨粗鬆症学会を中心に骨粗鬆症リエゾンサービスが昨年から始まり、 第1回のリエゾンマネージャーの試験が10月に開催されます。看護師、理学療法士、薬剤師などが受験対象になりますが、このような取り組みにより骨粗鬆症治療の継続につながり、大腿骨近位部骨折のみでなく脊椎骨折なども含めた骨折予防、腰痛発症の軽減につながると信じています。

-その3ストレスと腰痛-

私達は日常で様々な心理社会的なストレスにさらされており、過度なストレスが心身に影響を与え、精神的な病気のみでなく、内蔵の病気(胃・十二指腸潰瘍や自律神経失調症—交感神経と副交感神経のバランスが崩れ交感神経有意になること)も生じる一方で、身体の不調を来たします。ストレス解消として暴飲暴食、喫煙、生活習慣の乱れ,運動不足による肥満から生活習慣病を発症、増悪するといった悪循環を形成します。その中でも腰痛はストレスと密接な関係があり、急性腰痛が慢性化する原因としても注目されています。

急性腰痛の恐怖体験も、腰痛が繰り返すのではないかという恐怖回避思考を生じ、不活動になることで運動不足を生じ、腰痛を長期化、重症化させます。腰痛の原因がはっきりせず、鎮痛薬の効果がなく、腰痛以外の症状(肩こり、不眠、動悸、気分不良など)も合併する場合、痛み部位や痛み方、痛みの程度が変化したり、痛む動作、姿勢の影響がない場合、痛みが長期化、慢性化している場合にはストレスの関与を疑います。腰痛のストレスには社会的な要因として、職場環境では職場の人間関係、労働時間、収入に対する不満、家庭環境では、家族内の人間関係(夫婦、嫁姑、子供)、子育て、受験、幼児期の虐待などがあります。このようなストレスは皆、抱えているとお思いでしょうが、実はその捉え方は性格が大いに関与し、完全主義,頑張りすぎや悲観的、自意識過剰、短気、頑固な性格,痛みに対するこだわり(痛みを完全にとりたいということに執着すること)は負の影響を及ぼします。

また医療機関によって異なる説明、治療が行われたことに対する不信感、医療者が発した言葉が誘因となる場合もあり、私達医療者側も心して対応することを必要があります。ストレス性腰痛の診断には問診が最も重要で、通常よりも時間をかけ、腰痛の特長のみでなく、他の随伴症状や既往歴、家庭職場環境についても問診の回数を重ねながら原因を追及します。その中で医師と患者との信頼関係をいかに構築するかも重要で、患者さんと一緒に腰痛の原因を探り,ともに治療して行く姿勢で治療に臨んでいます。ストレスの原因が判明すれば,第3者(職場の同僚、上司、家族)と協力して問題を解決を探りますが、実際には解決困難なことも多いため、投薬(抗うつ薬、抗不安薬)を併用しながらストレスを解消する方法(運動、娯楽、休息、休眠、食事、旅行など)を探ります。精神神経専門医に紹介して一緒に治療する場合もあります。整形外科医としてはやはり運動には積極的に関与しますが、慢性腰痛におすすめの運動は、今のところはウォーキングなどの軽めの運動で体を動かすことを継続することが科学的にも勧められています。

慢性腰痛に科学的根拠の高い治療で認知行動療法があり、痛みに対する間違った思い込みをしている場合にその考え方が間違っていることに気づかせ、行動を変えて行く方法ですが、現時点では整形外科、精神・神経科、理学療法士、看護師などのチーム医療が必要であり、専門の医療機関でしか行われていないのが現状です。

-その2身体表現性障害—疼痛性障害と身体化障害-

心因性腰痛とは心理社会的名要因が原因として生じる腰痛で、疼痛性障害と身体化障害が代表的疾患です。疼痛性障害とは痛みにみあうだけの解剖学的病変が見いだされない痛みで、過度な痛みを訴えます。

身体化障害とは身体疾患を模倣する疾患、医学的に説明不能な身体症状と定義され、転換ヒステリー、ヒステリー性麻痺とも言われています。

具体例としては、疼痛性障害は頻回の脊椎手術がされている患者さん(多数回腰椎手術例:multiple operative backといいます)で腰椎椎間板ヘルニアで初回手術をしたにも関わらず、足のしびれ,痛みがとれないことで再度手術を受け、よくなればいいのですが、あるいはいったんよくなってもすぐに痛みが再燃する場合が(まれに)あります。この場合、手術した医師は徹底的に検査を行い痛みの再燃した原因を調べて、ヘルニアの再発や取り残し、ヘルニア以外の原因(腰部脊柱管狭窄などの関与)を追究して薬物治療、ブロック注射などでなんとか患者さんの痛みを取り除こうとします。しかしながらいったんよくなっても再発を繰り返す場合には医師と患者の双方でよく相談して再手術(後方から手術を数回された後に最後の手術として前方固定術)を行うことがあり、逆によくならない場合(手術した医師との信頼関係が損なわれた場合)にはドクターショッピングを繰り返すこともあります。このような場合の治療として、患者さんの訴えを傾聴し、痛みに対する行動の変容を変える(痛みの認識を変える)ことによって、痛みに対する受け身的、無気力的な見方を客観的、能動的に変えることで患者さん自身の苦痛が軽減されることがあります。認知行動療法がまさにその代表的な治療になりますが、整形外科のみならず精神神経科、ペインクリニック、看護師、理学療法士、などがチーム医療で行う環境が必要になります。

腰痛を伴う身体化障害は非常に診断と治療が専門的になります。急に下肢全体に力が入らなくなり歩けなくなって救急車で搬送され入院されるケースや歩けるが足関節だけ力が入らないので外来で通院するケースなどあり、神経所見が画像所見と一致しなかったり、MRI検査など行っても明らかな原因がないことが多いです。確定診断は経頭蓋磁気刺激によって麻痺があっても神経伝導路が正常であることを証明する必要が(厳密には)あります。さらに特徴的なことは患者さんに重症感がなく、家族も呼んで話を聞くと家族背景が複雑(離婚、確執)であったり、家族の理解が得られないケースもあるのでこのようなケースほど治療が長期化したりします。家族の協力が必要なケースが多く、干渉しすぎない方がいい場合もあり、こちらの場合も整形外科があくまでも主治医となり、精神神経科とコンタクトをとりながら症状の改善を温かく見守ることでよくなっていくことも経験しました。