山口経済レポート連載記事 – ページ 5

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山口経済レポート

院長が2013年から山口経済レポート(http://www.ykr.co.jp/index.html)に毎月掲載している過去のコラムを掲載しています。腰痛を中心に様々な整形外科の疾患や情報を発信していますので順次アップしていきます。

骨粗鬆症治療薬は大きく3つに分類され、骨吸収抑制剤と骨形成促進剤、カルシウム製剤があります。骨吸収抑制剤はビスフォスフォネート製剤、選択的エストロゲン受容体調整薬、カルシトニン製剤、デノスマブ(抗ランクル抗体)、女性ホルモン製剤があり、骨形成促進剤は活性型ビタミンD3製剤、ビタミンK2製剤、テリパラチド製剤があり、特に近年骨吸収抑制剤ではゾレドロン酸(1年に1回の点滴製剤)、デノスマブ(半年に1回の皮下注射)、骨形成促進剤ではテリパラチド(集1回皮下注射と連日投与の自己注射)の登場により骨密度の増加が大いに期待でき、治療の選択肢が広がりましたが、そのぶん治療者側も各製剤の特徴と長所、短所を知って患者さんごとのオーダーメイドの治療が必要になりました。それに加えて今年登場する抗スクレロスチンモノクローナル抗体(一般名ロモソズマブ)を紹介します。ロモソズマブは骨形成促進剤に分類されますが、最大の特徴は骨形成促進作用と骨吸収抑制作用を両方有する初めての薬であり、世界に先駆けて日本で承認されました。1か月に1回皮下注射を行い原則1年間継続します。数千人の参加した国際共同試験の結果でも新規骨折抑制率、骨密度の上昇率も高い結果でした。このように非常に楽しみな薬剤ではありますが、適応については骨密度が非常に低く、脆弱性骨折(軽微な外力で骨折してしまう)の危険性が高いなど、しっかり吟味していく必要がありますが、骨粗鬆症の患者さんにとっては福音になることは間違いありませんので、骨折リスクの高いか骨折を繰り返す重度の骨粗鬆症に対して使用されいくことと思います。

12/1-2に滋賀県大津市で開催された日本運動器疼痛学会に参加して認知行動療法に基づく「いきいきリハビリノート」による運動促進法の講習会に参加しましたのでその内容を紹介します。慢性腰痛の治療法でエビデンスのある運動療法、小冊子を用いた患者教育、認知行動療法の3つの要素を加味して、新潟大学リハビリテーション科の木村慎二先生、九州大学心療内科の細井昌子先生らが作成されたもので、すでに第4版となります。このノートを使用して患者さんの医療不信の払拭、日常生活動作、生活の質の向上、社会への参加機会の向上を図るものです。3ヶ月以上の疼痛を有し、有効な薬物療法がなく、外科的治療も適応がなく、運動療法に前向きり取り組める方が対象になります。また質問用紙で破局的思考のスケールで30点以上、うつ、不安のHADSというスケールで10点以下であり、交通事故や労働災害、精神疾患などを除外します。最初に慢性腰痛には運動療法、小冊子を用いた患者教育、認知行動療法が効果があることを説明して、半年から1年後の長期目標と1ヶ月後の短期目標を立てて毎日ノートに記録をしてもらいます。どんな行動をして身体の調子がどうだったか?それについてどう考えたか?、その時の感情を記載してもらい、自分をねぎらうメッセージを書いていただきます。この内容を見て治療側はメッセージを書き入れます。主には理学療養士がリハビリを指導しますが、マッケンジー法、ウィリアム体操、ストレッチング、筋力増強訓練、体幹安定運動を指導しますので理学療法士が記載することが多くなります。今回マインドフルネスウォーキングという歩行方法もリハビリメニューに加わりより充実した内容になっていました。全国的に大学病院やペインセンターなどでチーム医療の中で使用されることが増えてきているそうです。

(このノートは一般の方向けには配布されませんのでご注意ください)

スポーツ傷害でのケガが生じた際の応急処置として従来RICE処置が原則であると言われてきました。RICEとはRest(安静)、Ice(冷却)、Compression(圧迫)、Elevation(患肢挙上)の4つの処置のことを言います。冷却の方法としては損傷部位にタオルなどで覆ってから氷嚢(冷却器)などで20分冷却を間欠的に繰返します。冷却することで腫れや痛みを軽減する効果もあります。氷を入れる際のコツとして氷を入れたアイスバック(またはビニール袋など)の空気をできるだけ吸い出してできるだけ真空状態にすることです。圧迫は弾力包帯などで損傷部位を適度に圧迫することで出血や腫れを縮小します。患肢挙上は損傷部を心臓より高く上げることで腫れを予防します。次にRICE処置にProtection(保護:ギプス、装具で損傷した組織を保護する)を加えてPRICEという概念が提唱されました。さらに最近(2012年にBleakleyらが提唱)ではPOLICEという概念が提唱されるようになりました。POLICEはProtection、Optimal Loding、Ice、Compression、Elevationの頭文字からなります。Optimal Lodingとは適切な負荷と言われており、必要以上に安静、固定をすると筋肉の萎縮や関節の拘縮などの弊害が生じることがあるので適度な運動を早期から行うことで筋肉の萎縮を予防し、組織修復の質を改善することが期待されます。しかしながら適切な負荷は損傷の程度や受傷したときのエネルギーの大きさによって異なりますので設定が非常に重要になります。まだそのエビデンスが確立されていませんのでできれば整形外科で医師、理学療法士の指導の下行うことが望ましいと思います。今後このPOLICEが応急処置の王道となると考えられますので紹介しました。

参考文献
Bleakley CM, Glasgow P, MacAuley DC. PRICE needs updating, should we call the POLICE? Br J Sports Med 46:220–221, 2012.

最近注目されている健康経営については、山口県でも健康経営企業制度があり、もうすでに実践されている企業も多いと思いますが、経済産業省の健康経営ハンドブックには「従業員の健康保持・増進の取組が、将来的に収益性等を高める投資であるとの考えの下、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践すること」とされています。特に健康経営で問題となるのが従業員の健康問題であり、健康問題に直接かかる医療費とは別にアブセンティーズム(病欠)とプレゼンティーズム(健康問題で効率・生産性が低下している状況)があり、プレゼンティーズムの比率が高いことが知られています。疾病コストは医療費+薬剤費ではがん、肩こり・腰痛、冠動脈心疾患、慢性疼痛(肩こり・頭痛以外)の順であり、がんが上位ですが、生産性(プレゼンテーィーズムとアブセンティーズムの合計)ではけん怠感、抑うつ、肩こり・腰痛、睡眠障害の順で精神疾患の占める割合が多いのですが、合計では肩こり・腰痛がトップであり、抑うつ、けん怠感、慢性疼痛が続きます1)。このように運動器疾患の占める割合が高いことがお分かりいただけると思います。その中で慢性疼痛による経済的損失は1週間で4.6時間、時間ベースの経済損失は1兆9530億円にのぼるという報告もあります2)。慢性疼痛は成人の約2割を占め、患者数2300万人と言われ男女とも腰痛、肩こりが上位を占めます。厚労省では慢性の痛み対策として、前回お話しした慢性疼痛ガイドライン作成や医療者の役割分担による医療体制の構築、慢性疼痛の教育、国民への啓発、情報提供、調査・研究を行い、慢性の痛み政策ホームページ(http://www.paincenter.jp)を立ち上げていますので是非ご覧ください。

2018年3月に厚労省の慢性疼痛の研究班と7学会が協力して慢性疼痛治療ガイドラインが発行されました。総論、薬物療法、インターベンショナル治療、心理的アプローチ、リハビリテーション、集学的治療からなり、51の質問項目に答えをエビデンスレベルと推奨度を記載されています。医療者向けですが患者さんの声を反映するように配慮してあります。慢性疼痛の定義は治療に要すると期待される時間の枠を超えて(概ね発症から3ヶ月以上)持続する痛み、あるいは進行性の非がん性疼痛に基づく痛みとされました。慢性疼痛の分類では要因別には侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、心理社会的疼痛がありますが、これらが複雑に絡んだ混合性疼痛になっていることが多く、痛みが長引くと心理社会的要因との相互作用により、抑うつ状態や破局的思考が関与して不動化などが出現し日常生活動作の低下が生じます。失業などにより社会活動性が低下すると家庭内での存在感や経済的ストレスが自己価値観の低下につながり、それに伴って自己効力感が低下するという悪循環が生じます。慢性疼痛の診断には問診、身体所見、検査(血液、画像)を駆使して正確な病態把握が必要であり、悪性腫瘍、感染性疾患や外傷性疾患を見逃さないようにすることも重要です。また原因となる疾患の診断だけでなく痛みを修飾している抑うつ、不安、不満感など心理的側面や行動の評価も必要です。慢性疼痛患者さんを評価する際に多面的評価が必要で、痛みの強さ、部位、性質、日内変動、増強。緩和因子、心理状態、日常生活の障害度、家族構成、精神疾患、職歴、仕事内容、補償、睡眠、食事、体重変化などにも注意が必要です。痛みを全人的に理解して個々の患者に適した治療やケアを選択します。慢性疼痛の治療における目的は痛みの軽減が治療の目的の一つではあるが、第1目標ではなく、治療による副作用をできるだけ少なくしながら痛みの管理を行い、日常生活動作や生活の質を向上させることが最終目標となります。

慢性疼痛の薬物療法については非ステロイド性抗炎症薬は運動器疼痛においては使用することを強く推奨する、神経障害性疼痛については使用しないことを弱く推奨する、アセトアミノフェンは運動器疼痛には使用することを強く推奨する、神経障害性疼痛については使用しないことを弱く推奨する、プレガバリンは運動器疼痛においては使用することを弱く推奨するとされましたが、副作用を考慮して、漫然とした長期使用は控えることも付け加えられました。。また神経障害性疼痛については使用することを強く推奨する、デュロキセチン、トラマドールは運動器疼痛、神経障害性疼痛については使用することを強く推奨する、漢方薬は運動器疼痛、神経障害性疼痛については使用することを弱く推奨されました。インターベンショナル治療(ブロック治療)については、硬膜外ステロイド薬注入、硬膜外ブロックは頚椎・腰椎椎間板ヘルニア、頚部・腰部脊柱管狭窄症に対しては強く推奨されました。神経根ブロックは腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症に対しては強く推奨され、頚椎疾患では弱く推奨されました。後枝内側枝ブロックは頚椎・腰椎由来の頚部、腰背部痛に施行することを強く推奨され、椎間関節ブロックは施行することを弱く推奨されました。

トリガーポイント注射は慢性疼痛には施行することを弱く推奨され、関節内注射は変形性膝関節症にはステロイド、ヒアルロン酸とも施行することを弱く推奨する、という内容でした。心理的アプローチについては、患者が受容しにくい疾患について正しい知識や情報を心理面に配慮しながら伝え、問題に対処する方法を教育、援助する心理教育、リラクゼーション、セルフモニタリング、コミュニケーションスキルなどの行動療法、認知行動療法、第3世代の認知行動療法であるマインドフルネス(心のあり様をマインドフルネス瞑想を通じて育成し、それにより身体的・心理社会的ストレスへの耐性が向上する)、アクセプタンス&コミットメントセラピー(痛みに関する不快な思考・感情を取り除くことに時間や気力を費やすのではなく、不快な事象が存在する状態が人間にとって正常な状態であることに気づき、患者が願う人生を送ることに支援する心理療法)はいずれも行うことを強く推奨されました。リハビリテーションについては慢性腰痛、変形性膝関節症、慢性頚部痛のいずれも施行することを強く推奨され、ヨガ、太極拳、気候、ピラティス、ラジオ体操は施行することを弱く推奨するという結果でした。また腰部固定帯や頚椎カラー、テーピングは慢性疼痛治療には推奨されませんでした。また理学療法士のみでなく様々な医療者がチームを組み、共通の目標に向かってリハビリテーションプログラムの遂行にあたり、支援する集学的リハビリテーションも慢性疼痛に強く推奨されました。集学的治療を始めるにあたっては各種の医療従事者が痛みに対する解剖学的・生理学的知識を身につけ、痛みに影響を及ぼす心理社会的要因を理解し、疼痛治療の基本的原則を理解した上で生物心理社会モデルに則って治療するという共通認識を持つことが重要であり、まず身体機能を改善させ、痛みがあってもある程度の活動ができることを経験させて自信を取り戻させることによって痛みで障害された情動機能を回復させることが目的であり、最終目標は患者さんごとに異なりますが、生活の質を向上させることです。

前回述べた痛風に次いで今回は偽痛風についてです。痛風では尿酸塩結晶が関節内に沈着して激烈な痛みを生じますが、偽痛風はピロリン酸カルシウム結晶(CPPD)が関節内に沈着して急激に関節炎を生じた疾患です。男女差はなく、60歳以上で約1割に発生し、85歳以上では3−5割に発生するとされます。最近の研究で一部遺伝性であり、原因となる蛋白も解明されています。膝関節が多いのですが四肢の関節や脊椎にも生じ、以前紹介したクラウンデンス症候群は激烈な頚部痛を訴えます。診断はX線写真で関節軟骨に石灰化を認めることと関節液検査を偏光顕微鏡で結晶を確認します。治療は痛風と同様にまず消炎鎮痛剤を使用しますが、改善しない場合にはステロイド剤を使用することもあります。関節内にステロイドの注射も効果的です。私たち整形外科医が膝関節炎で急性の腫れと疼痛が生じて歩行困難になった患者さんが来られた場合に、診断に迷うのは、38度以上の発熱を生じている場合には、化膿性関節炎、痛風性関節炎、偽痛風の3つの疾患を疑い、採血で白血球、炎症反応、尿酸値を調べて、関節液を採取して関節液を細菌培養検査と血漿検査に提出して慎重に治療を行います。疼痛が高度で歩行困難な場合や明らかに感染を疑う場合には入院して、手術が必要な場合もありますので注意が必要です。高齢者で内科で治療中の心筋梗塞や脳梗塞の患者さんが急に膝関節が腫れて痛がるため整形外科に紹介されることもあり、安静にしすぎることも危険因子の可能性もあります。

今回は痛風のお話をします。痛風は古来エジプトのミイラの関節に尿酸塩が見つかっており、アレクサンダー大王、レオナルド・ダ・ビンチ、ニュートンなども痛風で苦しんだそうで欧州では歴史の古い疾患です。日本では明治時代以前は痛風患者はいなかったそうですが、1960年以降に食生活の欧米化により増加しています。痛風とは高尿酸血症が持続して尿酸塩結晶が沈着した結果生じる痛風関節炎・痛風結節のことで、高尿酸血症は性,年齢を問わず血清尿酸値が7.0mg/dLを超えるものと定義されます。高尿酸血症は痛風関節炎の明確なリスクであり、種々の生活習慣病においても血清尿酸値が臨床上有用なマーカーになると言われています。高尿酸血症の頻度は,成人男性において,30%弱であり、女性は50歳未満で1.3%、50歳以上で3.7%と圧倒的に少ないのですが閉経後に血清尿酸値が上昇するので注意が必要です。高尿酸血症は現在も増加傾向であり、それに伴い痛風の有病率は,男性において30歳以降では1%を超えていると推定され,現在も増加傾向です。食生活の欧米化によるプリン体の摂取量が増え、カロリーの過剰摂取による肥満が増加したことが原因とされています。

痛風性関節炎で代表的なのが第1足趾付け根(MTP関節)の関節炎で、他に足関節炎、膝関節炎があり、関節周囲に発赤、腫脹、熱感に高度の疼痛を伴い、痛くて歩くのがやっと、という状態で整形外科を受診されることが多いです。診断は問診と視診で比較的容易ですが、確定診断として採血で尿酸値を確認しますが、痛風発作時には必ずしも尿酸値が高値にならないことはしばしばありますが、安心は禁物でその場合には1ヶ月後に再度検査をします。また関節液が貯留している場合には関節液を穿刺して偏光顕微鏡という特殊な顕微鏡で痛風結晶を確認しますが、最近は超音波検査で関節内に痛風の結晶が直接確認できます。治療は急性期にはまず炎症を抑えるために消炎鎮痛剤を通常より頻回に使用します。炎症所見が改善しない場合にはステロイド剤を短期間使用することもあります。約2週間で炎症が落ち着いたら高尿酸血症の治療薬(尿酸降下剤)を少量から開始します。尿酸排泄促進薬と尿酸生成抑制薬の2種類がありますが、近年発売された尿酸生成抑制剤(フェブキソスタット)を使用する場合が増えてきました。定期的に尿酸値を計測して尿酸値を6mg/dL以下にコントロールします。食事はプリン体の多い食事指導(肉類、内臓類、ビール、アルコール多飲)を行い、十分な水分摂取と適度な運動を指示しますが、激しい運動は痛風発生させることもあるので注意が必要です。痛風も生活習慣病と関係がありますので生活習慣を改める(見直す)いい機会と思って是非治療を継続することをお勧めします。

参考文献
高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第2版

腰椎椎間板ヘルニアの症状は腰痛と坐骨神経痛(一側の下肢痛)ですが、通常は神経学的所見から罹患神経根を予想して画像診断としてMRIを撮像します(その前にX線写真を撮像します)。治療は消炎鎮痛剤、神経障害性疼痛治療薬などを用いて内服治療と安静後、改善がなければ神経ブロック治療を行い、改善が乏しく、日常生活、社会生活が障害される場合に手術を勧めます。通常は2ヶ月以内に疼痛は7~8割は改善しますが、手術をする割合は20~30%と言われています。絶対的な手術適応として膀胱直腸障害(尿閉と言って尿意があるのに排尿困難であり、導尿で残尿が確認します)が生じた場合、急に急に急に下肢麻痺が進行した場合があります。
これまでも手術した群と手術しなかった群の比較で、1年後の成績に差がないという報告は散見しましたが、最近の論文で2年間の追跡調査されたオランダの論文(BMJ)が出ました。2~3ヶ月疼痛が持続する腰椎椎間板ヘルニアを手術する群と手術しない群に均等に割付(無作為試験と言います)した結果、手術しない群の中で疼痛が強く手術になった例が44%ありましたが56%は手術せずに改善しました。手術群が3ヶ月は優位に改善しましたが、1年、2年後には両者に有意差がないという結果であることから、患者に十分に情報を提供した上で、治療の選択と手術の時期については患者の判断に委ねるという結論でした。
この結果は決して手術してもしなくても一緒であるという解釈は危険であり、手術する時期(タイミング)により成績は変わってくる可能性があるので、患者さんの個々のケースに合わせて相談していく必要性があります。手術するかしないかは?私も日々患者さんと相談しながら、適切なタイミングを逃さないようにしていますが中々悩ましいです。

今回はテキストネック症候群を紹介します。 2015年フィッシャーマン博士(カイロプラクター)が提唱した言葉で、スマホやタブレットなどを頸部を前方に突き出したまま(フォワードヘッド肢位や亀の首肢位と言われます)長時間操作することで生じる反復されるストレス障害です。今や18~49才の79%がスマホを所有し、一日2時間使用していると言われています。特に小児、若年者に増加しており、21世紀病や現代病とも言われています。頭部は10~12ポンド(5~6kg)の重量があり、頚椎が15度屈曲すると、27ポンド(約14kg)の重さに感じられる。脊椎へのストレスは屈曲の角度により増加し、60度で60ポンド(約30kg)になります。進行すると、頸部痛、肩こり、頭痛、上肢への放散痛、筋力低下、胸椎の後弯(いわゆる猫背)、呼吸が浅くなり、肺機能の低下の原因になります。2017年の論文でもX線検査で頚椎のアライメント(配列)の変化(通常前弯と言って前に弯曲しているが、むしろ後弯する)が認められることや、脊椎外科医師がこのような小児の将来には手術が必要になる可能性も示唆しています。また、座位より立位でのスマホ使用は頸部にさらなる負荷を生じます。治療は予防として長時間のスマホやパソコン使用を控えること、目と水平な自然な位置にモニターが来るようにすること、姿勢を頻回に変える、ストレッチ、顎を指で押して頭部を後方移動するセルフエクササイズがあります。長時間下を見る姿勢を避けるため、使用者に警告することができるアプリを利用したり、スマホを操作している時の姿勢を友人に撮像してもらい、待ち受け画面で使用することで休憩を取ることを促すなどの自己防衛もあるそうです。
さて、当院ではこのような原因を含めて受診された頸部痛、肩こりの患者さんには主としてマッケンジー法で評価、治療します。私が診察してレッドフラッグ(治療の対象にならない病状)を除外したのちに理学療法士に姿勢の指導と反復運動によって痛みや可動域が改善する方向が見つかれば、セルフエクササイズとして自宅や職場で実践してもらうことで治療します。もちろん全てマッケンジー法で良くなるとは限りませんのでトリガーポイント注射や他の方法が有用なこともあります。このほかにも治療法はありますので、お悩みの方は まずは最寄りの整形外科に相談することをお勧めします。

骨粗鬆症治療薬には骨からカルシウムが出ていくのを防ぐ骨吸収抑制剤と骨を作る骨形成促進剤がありますが、骨吸収抑制剤であるイバンドロン酸ナトリウム水和物がよく使用されています。この薬を内服されている患者さんが時々この薬を飲むと顎の骨が溶けると聞いたのですが、本当でしょうか?と言われたり、この薬を飲んでいると虫歯の治療ができないので止めるように歯科の先生に言われました、というお話を聞くことがあります。この話の真相は、2003年にイバンドロン酸ナトリウム水和物による顎骨壊死の報告が初めて報告されたことにさかのぼります。この報告は実際は悪性腫瘍の患者さんに高用量のイバンドロン酸ナトリウム水和物の注射薬が投与されたもので骨粗鬆症の治療薬のイバンドロン酸ナトリウム水和物ではありませんでした。しかし2004年に骨粗鬆症治療薬のイバンドロン酸ナトリウム水和物投与中で難治性骨髄炎(虫歯から顎の骨に炎症が波及した疾患)の報告があり、以後イバンドロン酸ナトリウム水和物関連骨壊死(いわゆる骨が壊死する=腐る、頭文字をとってBRONJ:ブロンジェと呼びます)という名称で医科歯科の間に浸透していきました。

また骨吸収抑制剤にはデノスマブという注射薬での発生もあることから、骨吸収阻害剤関連顎骨壊死(ARONJ:アロンジェ)とも言われています。2017年に報告された論文では日本での発生率は10万人年対40とされ、骨粗鬆症を主に治療する整形外科医師と実際に虫歯の治療をする歯科医師にとって悩ましい問題とされてきました。しかしながらこれらの報告はいずれも後ろ向き研究(過去にさかのぼって発生率を調べた研究)であり、2004年にドイツでの前向き研究では発生率は10万人対1以下という結果で、日本の骨粗鬆症至適療法研究会での大規模調査でもイバンドロン酸ナトリウム水和物を投与後2年間で顎骨壊死の確定診断は認められず、むしろ歯周病の改善効果を有する可能性があるという報告が昨年の日本骨粗鬆症学会でなされました。

また骨粗鬆症至適療法研究会でのアンケート調査ではイバンドロン酸ナトリウム水和物を休薬せずに抜歯した206例中53%あったが抜歯後顎骨壊死が発生した例はなかったとの結果でした。2015年骨粗鬆症の予防と治療ガイドラインでは、イバンドロン酸ナトリウム水和物服薬が3年未満で危険因子(飲酒、喫煙、糖尿病、ステロイド治療、肥満、抗がん剤治療、口腔内衛生状態不良)がない場合には原則として休薬は必要ないが、服薬3年以上か3年未満でも危険因子がある場合には、休薬による骨折リスクの上昇、侵襲的歯科治療の重要性、休薬せずに侵襲的歯科治療を行なった場合の顎骨壊死の発生リスク(10万人中0.85人、0.01~0.02%)について医師と歯科医師が事前に話し合って方針を決める、とされ休薬の期間は3ヶ月を推奨されています。この休薬期間が3ヶ月という言葉が一人歩きして、イバンドロン酸ナトリウム水和物を内服していると虫歯になっても3ヶ月は治療できない、あるいは虫歯が治りにくいのはイバンドロン酸ナトリウム水和物のせい、と歯科医師から患者さんが言われる、歯科医師との連携不足などが原因で誤解が生じたためと考えられます。

双方の誤解を解くべく、日本でも呉市や遠賀郡で医師会と歯科医師会が勉強会を開き、地方自治体を巻き込んで連携する仕組みづくりをされている地域があるので大いに見習う必要があります。顎骨壊死を恐れたために、骨粗鬆症治療が遅れて骨折を生じてしまうことを避けるべく、医師と歯科医師がお互い連携する必要があります。当院でも骨粗鬆症治療を行なっている患者さんには歯科への定期検診をお勧めして、歯科への紹介状も積極的に書くことで連携を取るようにしています。歯周病予防は生活習慣病予防に関しても非常に有用であり、イバンドロン酸ナトリウム水和物を内服していても歯の定期検診を行なって歯周病、虫歯の予防をしていれば怖がる必要はないことを強調したいと思います。

参考文献
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会(HPよりダウンロード可能)