第55回 腰椎椎間板ヘルニアは手術した方がいいか?

腰椎椎間板ヘルニアの症状は腰痛と坐骨神経痛(一側の下肢痛)ですが、通常は神経学的所見から罹患神経根を予想して画像診断としてMRIを撮像します(その前にX線写真を撮像します)。治療は消炎鎮痛剤、神経障害性疼痛治療薬などを用いて内服治療と安静後、改善がなければ神経ブロック治療を行い、改善が乏しく、日常生活、社会生活が障害される場合に手術を勧めます。通常は2ヶ月以内に疼痛は7~8割は改善しますが、手術をする割合は20~30%と言われています。絶対的な手術適応として膀胱直腸障害(尿閉と言って尿意があるのに排尿困難であり、導尿で残尿が確認します)が生じた場合、急に急に急に下肢麻痺が進行した場合があります。
これまでも手術した群と手術しなかった群の比較で、1年後の成績に差がないという報告は散見しましたが、最近の論文で2年間の追跡調査されたオランダの論文(BMJ)が出ました。2~3ヶ月疼痛が持続する腰椎椎間板ヘルニアを手術する群と手術しない群に均等に割付(無作為試験と言います)した結果、手術しない群の中で疼痛が強く手術になった例が44%ありましたが56%は手術せずに改善しました。手術群が3ヶ月は優位に改善しましたが、1年、2年後には両者に有意差がないという結果であることから、患者に十分に情報を提供した上で、治療の選択と手術の時期については患者の判断に委ねるという結論でした。
この結果は決して手術してもしなくても一緒であるという解釈は危険であり、手術する時期(タイミング)により成績は変わってくる可能性があるので、患者さんの個々のケースに合わせて相談していく必要性があります。手術するかしないかは?私も日々患者さんと相談しながら、適切なタイミングを逃さないようにしていますが中々悩ましいです。

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。