第88回 頚部、肩周囲の激痛から肩挙上困難になる時何を疑うか?―神経痛性筋萎縮症と頚椎症性筋萎縮症―

外来で時々受診される患者さんで肩が上がらない(挙上困難)という場合に私たち整形外科医は何を疑い、どんな病態を思い浮かべながら診察しているか?をお話しします。まず肩が外傷(スポーツや転倒)などなく急に上がらなくなり夜間も痛くて眠れないという訴えの場合には肩の腱板の石灰沈着症を疑います。その場合肩はどの方向に動かしても激痛があり石灰のたまった部分に圧痛(押さえると激痛)があります。外傷(転倒や衝突、重量物挙上)が原因の場合は腱板断裂、上腕骨近位端・鎖骨骨折や肩関節、鎖骨遠位の脱臼(肩鎖関節脱臼)がないか?の鑑別が必要です。これらの疾患をまず疑い視診、触診によりどの部位をx線撮像したらいいかを診察の際に判断します。(石灰沈着や鍵盤断裂は超音波検査を先にすることも多いです。)また腱板断裂の場合は一回の外力だけでなく繰り返される外力で切れる場合もあり、ある程度までは挙上できることが多いです。また外傷がない場合に石灰沈着症以外に注意すべき疾患があります。それが神経痛性筋萎縮症と頚椎症性筋萎縮症です。突然の肩から腕の激痛(肩甲骨背側)後に筋力低下を生じる疾患ですが、どちらも注意すべきは肩が上がらないだけではないということです。診察では肘、手首、手指筋力で左右差(筋力低下)がないか?を診察し、知覚障害も調べます。頚椎症性か神経痛性かは中枢性か?末梢(神経)性か?ということで、麻痺に一致した頚椎の圧迫所見があるか?をMRIで調べます。病名にある筋萎縮症というのはある程度時間が経過してから筋肉が痩せてくるので初診時はないことが多いです。神経由来の場合の割合は頚椎症性筋萎縮症と神経痛性筋萎縮症が9:1で圧倒的に頚椎由来の場合が多いです。頚椎症性筋萎縮症の確定診断には電気生理学的検査(筋電図や経頭蓋磁気刺激)を行います。神経痛性筋萎縮症は原因は不明ですがステロイド投与などで回復することも多いそうですが、頸椎症性筋萎縮症は回復しない場合もあり頸椎除圧手術が必要になることもあります。肩が上がらないからと言って肩の病気だけとは限らないということも整形外科医は考えながら診療にあたっています。

 

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。