第76回 診断エラーと認知バイアス

1月、2月に山口大学主催の慢性疼痛診療研修会の講師を担当する機会があり腰痛の評価の講義をしましたが、その際に診断エラーと認知バイアスについて調べる機会がありましたので紹介します。診断エラーとは、診断の遅れ、誤り、見逃しのことで、2018年に学問として成立しているそうです。救急の現場では初診時に10%の診断エラーがおきている可能性が指摘されています。診断エラーの原因として状況要因(医師のストレス、診療の時間帯、勤務形態、設備、人手)、情報収集要因(情報収集過程と解釈に問題がある)、統合要因(直感が医師に与える負の影響)があると考えられています。最近注目されているのが統合要因である認知バイアスです。医師の診断は早い思考の直感的診断と遅い思考の分析的診断がお互いに相補的に使い分けられながら的確な診断に結びついています。思考の歪みを起こす認知バイアスとは診断エラーに至る場合の直感のことで、1つの診断に6つ以上の認知バイアスが影響しているという報告もあります。You tubeの動画にもアップされているselective attention test(バスケットゴリラ)で白シャツを着た人がバスケットボールをパスする回数を数えるよう支持された動画にゴリラが写り込んでいるのですが、私もはじめ見たときは全くゴリラに気づきませんでした。(これを非注意性盲目といいます)疲れている時や時間に焦っているときは一番楽に処理できる思考に引っ張られやすくなり、本能的感情で判断が左右されたり、想起しやすいものを考えてしまったり、他の鑑別疾患を考慮することをやめてしまうなど様々な認知バイアスがあります。このように一度認知の歪みが発生するとその思考パターンは修正が難しく、診断エラーに直結しやすいことがわかっているとのことですので、私たち臨床の現場で働く医師は経験に基づく直感を大事にしつつも冷静に振り返る思考が必要でありますが、診断エラーはゼロにならないことを自覚しつつも日々反省する毎日です。

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。