第37回 「腰痛は怖くない」キャンペーン

2015年7月12日に放送された、NHKスペシャル 「腰痛・治療革命 ~見えてきた痛みのメカニズム~」をご覧になられた方はおられるでしょう。この番組は東京大学整形外科の松平浩先生がNHKと協力して製作されたものです。このお手本になったのが15年以上前にオーストラリアで実施された「腰痛に屈するな!」というキャンペーンで、具体的には権威のある医師や芸能人が腰痛があっても安静は最小限にして運動したほうがいいですよ、というメッセージCMをテレビで繰り返し流した結果、腰痛による欠勤日数が減少したり、医療費が20%削減したという論文です。

実は松平先生によるとその年の再放送のリクエストが最も多かったそうで、今までに何回か再放送されています。なぜこれほど反響があったかというと、腰痛に対する考え方の意識変革と前回お話しした恐怖回避思考を減らすことが証明されたからです。

ステップ1として腰痛は怖くない、腰椎椎間板ヘルニアの9割は自然に消失する、痛みを減らすには怖がらずに動くこと、動くことが一番の薬などのメッセージを映像で見ることで慢性腰痛患者さんの38パーセントが改善し、ステップ2としてこれだけ体操として背中を反らすエクササイズを行い、慢性腰痛患者さんの56パーセントが改善したことを論文や本でも証明されました。

ステップ3としてオーストラリアで行われている認知行動療法を紹介され、カウンセリング(どんな動きが痛みを誘発するか?)と運動を1時間おきに繰り返すことを1日8時間3週間行うことで、9人中8人が改善したことも映像で紹介されました。この番組の反響が大きかったのは、一般の視聴者にも共感を呼んだからに他なりませんが、腰痛の患者さんに正しい情報を与えて励ます態度を行うことで恐怖回避思考を回避できること、患者さんを痛み行動化している人として捉えることなど医療者側にも意識改革が必要であることを再認識しました。

皆さんもぜひNHKの以下のHPでその動画を視聴することができますので、ぜひ一度ご覧いただき、腰痛に対する認識を変えていただければ幸いです。

http://www.nhk.or.jp/kenko/nspyotsu/

参考論文:Spine. 2001;26(23):2535-42.

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。