第02回 腰痛診療のパラダイムシフト

腰痛診療のパラダイムシフト

腰痛に対する概念が1995年以降、世界的に大きく変革しました。腰痛の原因を解剖・実験や画像やブロックを駆使して腰の解剖学的破綻の原因を追求する考え方から、腰痛を生物社会心理的症候群として捉えようとする考え方にシフトしてきました。生物社会心理的症候群とは聞き慣れない言葉ですが、腰痛を心理的社会的側面から捉えようとする考え方であり、このことにより治療方法も変わりつつあります。

腰痛の疫学

腰痛患者数は全世界では6億3200万人(2012年Lancet)、日本では約1,000 万人で、人口千人あたり約90人以上で国民の愁訴の中で第1位です。(厚生省国民生活基礎調査)腰痛の障害罹患率は米国では85%と報告され、年間1000億ドル以上の医療費が費やされており、社会的問題になっています。

腰痛の分類

時期による分け方としては症状が出て1ヶ月以内であれば急性腰痛、3ヶ月以上を慢性腰痛と定義します。原因による分け方としては原因が特定できる特異的腰痛と、原因が特定できない非特異的腰痛があります。特異的腰痛は、腰椎椎間板ヘルニアや腰部脊柱管狭窄症、脊椎の骨折、腫瘍(がんの転移や骨髄、リンパの癌)、感染(菌が椎間板内にはいりこむ)、その他子宮筋腫、尿管結石、腹部大動脈瘤の破裂など整形外科以外の病気も含まれていますが、腰痛全体の15%にすぎません。残りの85%は原因が特定できない非特異的腰痛です。今後医学の進歩により解明されてくる可能性があります。特異的腰痛の中でも重篤な脊椎病変の可能性のあるサインをレッドフラッグといい、具体的には20歳未満55歳以上、外傷歴、安静時の持続する痛み、ステロイド薬の使用、原因不明の体重減少、発熱、膀胱直腸障害(尿や排便の障害)などがありますが、これを問診や診察の中でいかに見落とさないようにするかが私達整形外科のプロの役目と考えています。

ワンポイントアドバイス

安静時の持続する痛み、発熱、原因不明の体重減少、排尿や排便の障害を伴う腰痛は重篤な脊椎病変が潜んでいる可能性があるので整形外科専門医を受診して精密検査等を受けましょう。

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。