デュロキセチチンスピーカズカンファレンス

4/2東京でデュロキセチチンスピーカズカンファレンスに参加しました。デュロキセチチン(サインバルタ)が慢性腰痛症や変形性膝関節症に適応がありますが、その適正使用について学ぶ会で出席者は土曜日日曜日で約80名とのことでしたが、私は日曜日に参加しました。最初に佐賀医科大学整形外科の園畑准教授が下行性抑制系の鎮痛メカニズム〜変形性膝関節症の観点から〜についての講演でした。痛みのメカニズムとしてアラキドン酸カスケード、脳内麻薬(ベータエンドルフィンによるランナーズハイなどの原因)、下行性痛覚抑制系(ノルアドレナリンとセロトニン)があります。特に下行性疼痛抑制系をつかさどるのが脊髄後角ですが、脊髄後角にノルアドレナリンを投与すると85パーセントが抑制されるそうです。脊髄後角第二層は約30パーセントが抑制系でノルアドレナリンの効果は抑制性の伝達物質を激しく放出させるだけでなく、GABAやグリシンも抑制し、特にGABAを抑制するとのことでした。ノルアドレナリンはC繊維、Aδ繊維由来の興奮性電流を抑制し、先生の動物実験の結果を提示されました。セロトニンは65パーセント抑制するのと10パーセントは興奮させる結果だったそうで、卵巣摘出したラットの実験ではAδ繊維しか抑制せず、エルカルシトニンを投与すると回復するそうです。セロトニン選択的再取り込み阻害剤はパロキセチンがありますが臨床上効果に乏しく、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤としてデュロキセチチンがあり、下行性疼痛抑制薬として注目されてきました。変形性膝関節症の慢性疼痛が全身の疼痛閾値を低下させるという中枢感作の報告が紹介されました。人工股関節置換術前の鎮痛剤の内服については先生のデータでは43パーセントと以外に低かったそうですが、理由として体に悪いというのが一番で、効果がないというのが二番、安静で対応というのが三番の結果を示され、医師の説明不足、評価を適正にしていないことも原因であることを指摘されました。患者さんの痛みを上手に抑えて運動療法を適正に行うためにはNSAIDS、アセトアミノフェン、オピオイド、プレガバリン、デュロキセチチンなどを効果的に使用することをテイクホームメッセージとされました。次いでイーライ・リリーの榎本先生が変形性膝関節症に対するデュロキセチチンの臨床成績について報告されました。変形性膝関節症における疼痛感作という2010の論文後注目されてきました。そのメカニズムとして膝関節の局所の疼痛が慢性的な侵害刺激が中枢感作を生じます。身体活動と内因性疼痛調節として身体活動の高さは疼痛感作の抑制と下行性疼痛抑制に関与するとの事でした。デュロキセチチンはセロトニンノルアドレナリン再取り込み阻害剤です。変形性膝関節症で痛くて運動できない患者さんの負のサイクルを薬物療法で正のサイクルに転換することが目標であり、合併症のある変形性膝関節症患者さんには薬物療法を積極的に使用することを米の学会でも推奨しています。デュロキセチチンの変形性膝関節症の疼痛に対する300例のRCT試験の結果ではプラセボ群より30パーセント、50パーセント、持続的に有意に改善した結果を提示されました。直接鎮痛効果と間接鎮痛効果では直接鎮痛効果が顕著に示され、日常生活動作も改善した結果を提示されました。副作用として傾眠、嘔気、口渇、倦怠感、便秘があります。長期RCT投与試験の93例の結果では中止例が13パーセントあり便秘、傾眠、口渇、めまいなどが原因で膝X線写真では変形の増悪はありませんでした。又変形性膝関節症の治療に67パーセントの患者さんが満足していないというアンケート調査があり、医師に伝えていない方が30パーセント以上で、原因として疼痛が改善していないというのが60パーセント以上という結果を提示されました。長引く痛みに日常生活動作が制限されており、整形外科に通院する患者さんが78パーセント存在し、そのほとんどが整形外科クリニックに通院されているのでクリニックにおける薬物療法の重要性を認識しました。

変形性膝関節症治療における疼痛管理の重要性やデュロキセチチンにより患者満足度が高まる可能性などをグループディスカッションを行いました。患者さんの困っていること、動けないことの悪影響、患者さんの期待の理解、ゴール設定、痛みを取って良循環に持っていく、患者さんの望む治療を提供する、開業Drがどこまでできるか?を含めて治療選択肢の提示、痛みの慢性化を防ぐことの重要性について講演の際に盛り込むことを確認しました。

最後に島根大学医学部の内尾教授が変形性膝関節症に対する新しい選択というご講演を拝聴しました。慢性疼痛の中で膝痛は26パーセントで、変形性膝関節症はX線分類でKL分類で2530万人で疼痛のある方が780万人で女性が72パーセントと多数を占めます。医師と患者さんを対象にした変形性膝関節症の痛みのウェブ調査で約7割が日常生活動作で支障があり、6割が普段通りの生活を送れないと感じ、4-5割が家族に迷惑をかけて辛いと思っているそうです。関節痛発生の複雑性として炎症と不安定性による侵害受容性疼痛のみでなく神経障害性疼痛も合併している場合があり、痛みの感作や疼痛閾値の低下、痛覚過敏など慢性化の原因となります。  患者満足度は4割、医師の満足度は55パーセントであり、満足していないのは65パーセントが痛みで、患者さんは医師に日常生活の障害を4割伝えておらず、医師は日常生活動作障害を9割把握していると思っており、意識のズレがあるので、患者ー医師間のコミュニケーションをとり治療のゴール設定をすることが治療満足度を上げるポイントになる可能性を示唆されました。今後の治療として変形性膝関節症には非薬物療法から始めることも重要で、3ヶ月以上続く場合、NSAIDSや下行性疼痛抑制の薬物療法を組み合わせる必要もあり、NSAIDSには長期投与で消化管障害と腎機能障害の可能性があり、高齢の場合、特に注意が必要です。米国変形性膝関節症ガイドラインでは運動療法に薬物療法を組み合わせますが、その中にデュロキセチチンも推奨されているので治療の選択肢の一つとなることをお話されました。今後パーツとしての変形性膝関節症治療だけをするのではなく、変形性膝関節症を患う人としての治療を行うという治療概念の転換が必要であり、その中でデュロキセチチンはいわばPMOADS(patientーpatient pain-modifying OA drug)〜OAの患者さんの痛みを和らげる薬である〜というメッセージが非常に印象に残りました。


 

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。