腰痛学会その2

11/3、4の日本腰痛学会で興味深かった講演からです。
早稲田大学スポーツ科学学術院の金岡先生の「トップアスリートの腰部障害の予防」の講演を拝聴しました。腰部の特定の部位に負荷が加わり続けて障害がおこる状態をstage1:当初は違和感を感じる程度、stage2:組織に微細損傷が生じ運動時痛が生じる、stage3:組織に炎症が生じる、stage4:軟骨変性、骨吸収や増殖などの器質的変化が生じる、stage5:最終的に変形性脊椎症に至るに分類されました。腰部に伸展負荷が加わり続けることで腰椎椎間関節障害、椎弓疲労骨折(棘突起インピンジメント)、仙腸関節障害が発生します。腰部に屈曲圧縮負荷が加わると椎間板障害が発生するとのことでした。筋筋膜性腰痛:myofacial corsetーlike syndromeには腹横筋などの深部筋(ローカル筋)を鍛える体幹の安定化と骨盤周囲筋のストレッチと可動域の拡大が必要とのことでした。
アスリートの仙腸関節障害では女性に多く、フェンシング、バトミントン、卓球に多く、1ヶ月以上持続する疼痛にはMRIで仙腸関節にSTIR高信号を呈することが多いそうです。疼痛除去テストで確認できると障害の原因の一つとして治療の一助になるとのことでした。
右投げで左内腹斜筋に負荷が加わり損傷が生じやすい、きつい筋トレが有効とは限らない、水泳選手 壁を蹴る時椎間板に負荷が加わるなども勉強になりました。
骨粗鬆症性新鮮椎体骨折治療のカクシンー臨床研究で得られた核心に基づく革新的な治療体系の実現を確信するーという講演を大阪市立大の星野教授がされました。椎体骨折の治療の原則は保存的治療ですが椎体後弯変形、遅発性麻痺は遷延性疼痛などが残存する例があります。コホート研究でMRIのT1強調像は骨折が治癒すると信号変化が消失しますがSTIR高信号は1年で半数以上残存するとのことでした。半年で予後不良例は1/4あり、運動歴のない人が多かったそうです。腰痛に関連する画像所見はX線圧かい率が初期は有用でしたが晩期には椎体不安定性が重要であり、持続的に痛みがあり、保存的治療では患者アウトカムに与える影響は少ないという結果で装具の違いでもエビデンスはありませんでした。骨癒合不全の予約因子はT2高信号、低信号広範型でありました。
予後不良因子を同定して治療介入するものとしてテリパラチドでは椎体圧壊を防止できないので早期BKPについての半年後の結果ではVASの改善率は有意差はなく、ADL低下に有意に改善して、椎体圧壊の改善率は有意に高く、3割に隣接椎体骨折も生じ、後方要素の骨折も関連したとのことでした。骨折後二カ月以内と以後でのBKPの比較では前者に有意に成績が良好でした。遺残椎体骨折が高齢者に与える影響としてADL低下、腰曲がり、ロコモやサルコペニアがありますが、日本整形外科学会のプロジェクトで後弯(SVA95以上)と既存椎体骨折が3つ以上、胸腰椎移行部、中下位腰椎骨折が予後不良という結果を提示されました。

 

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。