第27回 急性腰背部痛から突然死の原因となる大動脈瘤と大動脈解離

以前特異的腰痛の中で内臓由来の腰痛で腹部大動脈瘤について説明しましたが、今回は俳優の突然死のニュースで再注目されるようになったので背部痛の原因となる胸部大動脈瘤、大動脈解離について解説します。腹部大動脈瘤は腰痛(腹痛を伴うこと伴わないことがあります)、胸部大動脈瘤は背部痛の原因となります。いずれも高血圧などの生活習慣病による動脈硬化が進行して生じることが多いですが感染症や遺伝性の疾患が原因となることもあります。大動脈瘤は大動脈の太さがなんらかの原因で膨らんだもの(通常の1.5倍)で、動脈の壁が保たれている真性大動脈瘤と動脈の壁(内膜)が裂けて二重になった解離性大動脈瘤があります。

胸部大動脈瘤の60%は無症状で胸部X線や超音波、(造影)CT検査でたまたま発見されることも少なくありません。大きくなると嗄声(反回神経麻痺)、飲み込みにくさ(食道を圧迫)、背部痛を訴えることもあります。動脈瘤が破裂すると突然劇烈な背部痛、胸部痛(裂けるような痛み)が生じ、喀血(肺に破れる)、吐血(食道に破れる)を生じることもあり、ショック状態になって救急搬送されたり、救急車の中や検査中に死亡することもあります。

大動脈解離の年間発症頻度は10万人あたり3人で、70代に多く、発症から死亡まで93%が24時間以内に死亡した、という報告もあります。動脈瘤の(一番太いところの)直径が5.5cm以上の場合には破裂する危険性もあり(予防的)手術の適応となります。また治療にはステントグラフト、人工血管といった選択肢がありますが、外科手術では人工心肺装置が必要であり、脊髄麻痺や脳梗塞の合併症が1−9%あります。

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。