日医かかりつけ医機能研修制度2019年度応用研修会その一

5/26日医かかりつけ医機能研修制度2019年度応用研修会が山口県医師会であり参加しました。全国でテレビ会議としてあるのでいつも助かっています。最初はかかりつけ医の感染対策の講演でした。感染症とは外的環境としての微生物と内的環境としての人体の間での相互作用にておこるもので、疲れや生活の乱れによって微生物と人体のバランスが崩れて微生物が異常に増殖し、人体はこれに対して強い反応を示します。感染症診療にはロジックが必要で患者背景を理解すること、どの臓器の問題か?原因となる微生物の同定、抗菌薬の選択、適切な経過観察が必要であるとのことでした。国際化が進み海外から持ちこまれる感染症が増加する(特にオリンピックなど)ことを注意する必要があるそうです。風疹の初期に耳介後部のリンパ節腫脹が特徴だそうです。又成人水痘が熱帯地方の外国人に多かったり、世界的に麻疹が流行しており予防対策が必要とのことでした。又環境の変化によりエボラやインフルエンザなど新興再興感染症にも留意する必要があります。耐性菌の問題、高齢者の感染症の特徴(38度以上の発熱は37パーセント、頻脈も37パーセント、症状が乏しい、せん妄・転倒・食欲不振など非典型的症状が多い)など教えて頂きました。原因となる微生物の同定には3,4日以上かかるため初期治療(エンピリックセラピー)ではそれをカバーする抗菌薬を使用し、原因菌と感受性が出たら最適治療(デフィニティブセラピー)に変更するとのことでした。腎盂腎炎の原因菌の90パーセントは大腸菌であることを念頭において治療することも教えて頂きました。又感染防止対策として手指衛生、適切な個人防御、接触感染については手袋、ガウン、飛沫感染についてはサージカルマスク、空気感染についてはN95マスクや個室対応が必要だそうです。感染症の予防として口腔ケアが有効とのことでした。医療現場の環境対策として床、空調、水回り、トイレなどの清掃の重要性、消毒薬を使用する際のエタノール、次亜塩素酸Naによる材質劣化に注意する必要があるそうです。頭頸部感染症(扁桃周囲感染症での開口障害、激しい咽頭炎、咽後膿瘍での嚥下障害、頚部感染性血栓性静脈炎の左右非対称の頚部腫脹)、感染性心内膜炎、椎体椎間板炎・骨髄炎・化膿性関節炎、伝染性膿痂疹、蜂窩織炎、壊死性筋膜炎、胆嚢・胆管炎、肝膿瘍、嘔吐下痢症の原因としてのノロウィルス、尿路感染症など各臓器別に注意すべき疾患を教えて頂きました。薬剤耐性に起因する志望者は年間70万人とされますが何も対策を取らないと2050年には1000万人が死亡すると言われているので不要な抗菌薬投与を避けることを強調されました。インフルエンザでは発熱は約半数であること、インフルエンザ迅速キットでは発症後24時間以内は感度が低く、感冒との違いは全身症状が強いこと、早期から咳が目立つことなどとのことでした。次いで医療保険と介護保険、地域包括ケアシステムの構築について拝聴しました。地域包括ケアシステムは1984年に提唱されましたが2019年度版地域包括ケアシステムの概念として日常生活圏域を単位として活動と参加について何らかの支援を必要としている人々(高齢者以外の児童幼児、障害者、その家族)が必要なら様々な支援を受けつつ出来る限り自立し安心して最後の時まで暮らし続けられる多世代共生の仕組みとされ、人々が生活の課題を抱えながらも住み慣れた地域で自分らしく暮らしていけるよう地域住民が支え合い、一人ひとりの暮らしと生きがい、地域をともに創っていくことができる社会を地域共生社会と定義し、今後日本社会全体が実現していこうとする目標で、地域共生社会を実現するための手段として地域包括ケアシステムがあるとのことでした。2025年が本格的超高齢社会の入り口で、2040年には高齢者人口死亡者数のピークとなるのでそこに向けての取り組みとして予防の積極的な推進による需要の抑制、多種職連携などによる中重度者を支える地域の仕組みの構築などが必要であるとのことでした。地域包括ケアシステムの具現化に向けて入院退院時の切れ目ない医療介護連携、居宅における看取りを含めた切れ目のない医療介護連携、多種職連携が必要で医療のみの垂直連携から介護との連携を基本とする水平連携中心へのパラダイムシフトが起きています。日本型の高齢者介護の確立として都市ではより在宅中心で、地方ではより施設活用するとのことで、地域包括ケアシステムでは200床未満の中小病院、有床診療所、医師会、かかりつけ医の三者が協力することが重要とのことでした。次いでかかりつけ医に必要な生活期リハビリテーションの実際について拝聴しました。リハビリテーションは急性期、回復期、生活期と区分されます。広義には障害があってもその人らしくいきいきとした生活ができる権利を獲得することとしての意味と医師、看護師、理学療法士などが提供する技術・サービスの意味とがあります。介護サービスは高齢者の自立を支え、できない部分を支援していくことが重要です。要介護状態の原因は脳卒中以外は死亡原因とは異なり、衰弱、転倒・骨折、認知症、関節疾患が原因であること、軽度の要介護者が増加してのは筋骨格系疾患が主要である、お守り介護認定が増加するという問題点も教えて頂きました。高齢者リハビリテーションの三本柱として介護予防、医療・介護におけるリハビリテーション、地域リハビリテーション体制があるそうです。かかりつけ医に求められることはリハビリテーションに対する正しい方向づけがなされる必要があり患者本人・家族が主体的に参加できるような働きかけが必要であるとのことでした。介護におけるリハビリテーションの必要性と将来あるべき姿としてリハビリテーション前置の考え方を再認識する、介護の負担を軽減するためにリハビリテーションは不可欠である、リハビリテーションを包括的に提供できるサービスを整備することを提唱されたそうです。自助、互助、共助、公助のいずれにもリハビリテーションは関わりを持っています。地域リハビリテーションと地域包括ケアシステムの目指すところは同じであるとのことでした。高齢者リハビリテーションの在り方としては主治医からリハ医への疾病の情報提供、通所リハビリテーションへの期待があり、リハビリテーション医療実践のポイントは廃用症候群の予防、意欲の向上、機能障害の改善、補助具の活用、ADLの向上、生活機能の維持向上があります。通所リハビリテーションは地域包括ケアシステムの中で地域や在宅生活を支えるためにリハビリテーションの拠点として役割を担うべきとのことでした。居宅サービスの協働方法としてケアマネジャーと医療機関が情報を共有して生活期リハビリテーション(特にデイサービスやデイケア)を行うことが重要であるとのことでした。慢性期における寝たきりの予防として安静度ではなく、活動度で指示を出す習慣が求められます。通所リハビリテーションの役割として医学的管理、心身生活活動の維持・上昇、社会活動の維持・向上、家族支援があり、短時間リハビリと長時間リハビリがありますが介護度に応じて決定されているとのことでした。リハビリテーションは単なる家族支援の負担を軽減するためだけでなく、家でできることを増やすことで介護しやすくなることを目指すとのことでした

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。