日本体育協会公認スポーツドクター養成講習会応用科目

2/10,2/11東京で日本体育協会公認スポーツドクター養成講習会応用科目3に参加しました。今回が最後の講習会になります。
最初に国立スポーツ科学センターの松林先生の持久性トレーニングを拝聴しました。
運動時のエネルギー供給にはクレアチニンリン酸からATP産生、糖と脂肪から解糖系酸化系のTCAサイクルを介してのATP産生があります。持久力が高い=エネルギー供給能力が高いといえます。持久性トレーニングの実際はどのような効果を得たいか?どのように身体に負荷をかけるか?どの程度の頻度でトレーニングをするか?を考えて行います。トレーニング強度は作業閾値を上げるエンデュランス、最大酸素摂取量の向上に有効なインターバル、解糖系エネルギー産生能力、緩衝能力の向上に有効なレペティションを上げていきますがリカバリー不足(オーバートレーニング)に注意する必要があります。環境を刺激として用いられる高地トレーニングは順化に数日必要であり、鉄分摂取、脱水対策、睡眠障害、トレーニング許容量の低下に注意する必要があります。高地トレーニングの標高は188-2500mが望ましく、スピード練習は1500-1600mで行い、3-6週を目安にすることが一般的です。
次いで国立スポーツ科学センター(JISS)の石毛先生のアスリートの体力評価を拝聴しました。スポーツ振興センターの中にJISSがあり、西が丘地区にあり日本のスポーツを強くすることを目標(オリンピック、パラリンピックでメダルを取る)にスポーツ選手のサポートと研究を行っているそうです。体力の3次元展開として筋力、持久力、スピードの3つがあります。
体力測定には身長、体重、BLS(ボディライセンススキャナー),BODPOD(空気置換法による体脂肪率)などの形態計測と有酸素性、乳酸性、非乳酸性パワー測定、筋力測定、跳躍力測定などの機能測定があります。
慶応義塾大学の勝川先生の腎肝消化器疾患とスポーツを拝聴しました。消化管疾患、肝疾患における運動のエビデンスは少ないので運動の可否判定は医学的常識とガイドラインを参考に行うそうです。消化管症状の予防には運動前の食事のコントロールが有効です。肝炎、肝硬変は中強度の運動は肝機能に影響しないそうです。CKDなど腎障害ではメディカルチェックをしながら運動を処方する必要があるそうです。運動中の鋭い一過性の肋骨下端の側胸部痛(脇腹痛)があり、英語でside stitchといいますが、医学用語ではETAP exercise-related transient abdominal painという病名になります。ランニング、水泳の経験の浅い選手に多いそうです。原因として横隔膜の虚血、横隔膜と腹部臓器を結ぶ靭帯のストレス、腹膜の壁側、臓側の腹部の摩擦による刺激症状など言われていますが解明はされていません。対処法としては運動レベルを落とす、腹壁を緊張させる、機能性残気量の多い状態で呼吸するなどがあります。予防としては運動直前の飲食を避け、運動中の水分補給をこまめにする、幅広のサポートベルトの着用などがあるそうです。スポーツドリンクも糖が高いと胃から小腸への移行が遅くなり水分補給に不利になるそうで、推奨されているのはポカリスェット、ゲータレード、アクエリアス、ナチュライといったドリンクです。ランナー下痢という運動により腸蠕動が増加して下痢する疾患もあり、過量のスポーツドリンクの摂取を避けることが予防だそうです。心疾患患者の運動許容はエビデンスがないのが現状であり、運動許容の診断書は現時点での判断になるとのことでした。2014アメリカスポーツ医学会の運動ガイドラインではPAR-Q+という7項目の質問をして医師に相談する必要があると紹介されました。
運動誘発の高尿酸血症は高強度の運動で筋肉内にATPの消費が高まると尿酸生成が高まります。日本人は排泄低下型が多いそうです。治療薬で尿酸排泄促進剤のプロベネシドはドーピングの禁止薬物なので注意する必要があるそうです。
東京医科歯科大学の上野先生のスポーツと歯科を拝聴しました。一流選手ほど虫歯の未治療例が多く、2012ロンドン五輪参加選手の虫歯は55パーセント、歯周病は15パーセント、智歯周囲炎(親知らず)は10パーセント、酸蝕症が45パーセントであり、スポーツドリンク頻回摂取の関連が高いそうです。屋外でのスポーツ選手はドライマウス(口腔内乾燥)が多い為とも言われているそうです。
歯周病と生活習慣病と密接な関連があり、歯周病予防には正常体重の維持、良質な食事、良好な運動習慣が重要だそうです。スポーツ歯科外傷はスポーツ外傷の1パーセントで、格闘技系やコンタクトスポーツの10-20代の男性に多いそうです。スポーツ別にはバスケット、野球、サッカー、バレーボールの順でした。抜けた歯の保存は乾燥状態なら30分、生理食塩水でも1-2時間しかもたないので、牛乳に浸しておくと24時間保存がきくそうですができるだけ抜けて1時間以内が生着率がいいそうです。抜けた歯を戻すには歯根が大切であり、根元を絶対に持たないことが重要とのことでした。又噛み合わせと運動機能の関連も重要とのことでスポーツクレンチング障害という疾患も教えて頂きました。

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。