平成29年度公認スポーツドクター養成講習会応用科目2日目-2

続いて大阪体育大学の土屋先生がメンタルトレーニングについて講義されました。アスリートの競技力向上のためには心技体が重要で心理面でのメンタルトレーニングが必要であり、メンタルトレーニングとはアスリートに対して競技、試合での実力を発揮に役立つ様々な心理的スキルを指導することで、注意集中のスキル、競技意欲を保つスキル、自信向上のスキルなどがあり、心理技法として目標設定技法、リラクゼーション技法、イメージ技法などがあり、チームに帯同するスポーツドクターにはアスリートの実力未発揮に関して助言を求められることもあるのでその知識も必要であるとのことでした。先生の関わっておられるバスケットボールの長身の選手を全国から集めるビックマンプロジェクト、レスリングのインテリジェンスプログラムや女性トップアスリートへの心理サポートなども紹介されました。スポーツは人格形成に良い影響を及ぼすか?という問いにスポーツマン的性格として思考的特徴として外交的、行動的特徴として活動的、情緒的思考として安定しているという研究結果があるそうですが、もともと社交的な子供がスポーツに参加しているという反対意見もあり、スポーツをすれば良い性格になると考えるのは短絡的で、スポーツが子供にとってどのような体験であるかが重要であるそうです。代表的な心理テストとしてのPOMS、スポーツではPCI(心理的コンディションテスト)、DIPS(心理状態診断テスト)、CSAI(競技状態不安テスト)を紹介されました。集中力でも広い範囲で自分以外の外的な切り替えの注意が必要であり、メンタルトレーニングで改善するそうです。メンタルトレーニングの進め方としてのアセスメント→心理技法の学習→評価をすることをお話されました。目標設定の方法として、こうなったらいいなと思うようにして今シーズン、来年度、5年度、10年度などの目標設定(競技の目標と人生の目標)をしてもらうと取り組む気持ちが変わってくる事例をお話されました。アスリートに必要なこととしてデュアルキャリア、イメージチェックとして外的イメージと内的イメージを切り替えること、実力を発揮するためのイメージ条件として鮮明であること、思い通りの統御性、視覚、筋感覚、感情、臨場感をもつ体験的イメージがあるそうです。

前国立スポーツ科学センターの川原先生のスポーツによる内科的障害についての講義がありました。運動後の急性腎障害には筋肉の融解によるミオグロビン尿性(尿が茶褐色)の腎不全と非ミオグロビン尿性の腎障害があり、10-20代で激しい運動後の腰背部痛、嘔吐などがあるときに疑い、尿酸トランスポーターの異常の場合があるそうです。水中毒による低ナトリウム血症として長時間の競技で水の過剰摂取、塩分の摂取不足が原因でこむらがえり、意識障害、全身痙攣、肺水腫、呼吸困難などの症状が特徴です。運動誘発アナフィラキシーで食後の運動で誘発され、ショックになることもあるそうです。スポーツ選手の貧血は鉄欠乏性が多く、軽度でもパフォーマンスに影響があり、鉄剤の内服で改善後も2-3ヶ月は服用する必要があります。ピロリ菌が関与するケースもあるそうです。オーバートレーニング症候群は一種の慢性疲労であり、持久系競技(長距離選手、クロスカントリーなど)に多く、トレーニングによる疲労と回復のアンバランスによる適応不全が生じているので性格にも注意して長期計画で徐々に強度を増やすことだそうです。高強度の運動での高尿酸血症は筋力、パワー系の選手に多く、尿酸値9以上では治療が必要とのことでした。女性アスリートの無月経は女子マラソン選手に多く、疲労骨折を生じやすく、摂食障害、低栄養状態と合わせて女性アスリートの3兆候と言われています。気管支喘息はトップアスリートに多く、13パーセントという報告もあり、治療していない競技者も多いそうです。

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。