第29回 タバコ(喫煙)は腰痛にとって害か?

-その1腰痛の危険因子について-

喫煙は肺癌、慢性肺障害の危険因子であること(肺癌は実に4−8倍!)は周知の事実ですし、動脈硬化促進することによる脳卒中、心筋梗塞の発症の危険性も高くなり、閉塞性動脈硬化症による下肢の血流低下が進行すると足の壊死が生じて切断に至るなど深刻な合併症が報告されています。また歯槽膿漏などの歯周病、肥満の危険因子にもなり、最近では受動喫煙に対する影響も社会問題となっています。

腰痛に関する喫煙の影響については、日本の腰痛診療ガイドラインにおいては喫煙は腰痛の危険因子であることは推奨グレードC(中程度のエビデンス:科学的根拠が少なくても一つあり、行うことを考慮しても良い弱い根拠に基づいている)とされています。患者さんを経時的に観察したコホート研究(5781例を最長33年という長期観察の報告や双子の9600例を8年間追跡した論文が有名です)喫煙と腰痛には腰痛の危険因子であり、容量依存的に相関を認める(喫煙本数が増えるほど腰痛発生の危険性が増加する)エビデンスの高い報告があります。一方で生活習慣の異なる双子の比較では、喫煙と腰痛発症に有意な相関を認めなかったという報告もありますが、ほとんどは危険因子であることに肯定する論文であることから喫煙は腰痛にとって害である、といって過言ではないことを肝に銘じる必要があります。2016年の論文で坐骨神経痛(腰痛のみでなく下肢まで放散する痛み)と腰部神経根性痛(腰椎椎間板ヘルニア)の発症リスクも喫煙者は有意に高く(1.46倍)、過去に喫煙した人でも1.15倍であったという報告もありますので、腰痛、坐骨神経痛の方には禁煙を勧める根拠になると考えます。

参考文献 腰痛診療ガイドライン日本整形外科学会、日本腰痛学会 2012

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。