第11回 特異的腰痛について -その6内臓性腰痛について-

-その6内臓性腰痛について-

前回までで特異的腰痛の中でも代表的な,骨折・腫瘍・感染について述べましたが、その他の内臓性腰痛について解説します。

比較的頻度が高いのが腎結石,尿管結石に伴う腰痛です。この時の腰痛は片側性で安静にしてもよくならす、通常の腰痛の部位よりも上の方に痛みを訴えることが多く、腎臓,尿管にそって叩いたときに痛みを伴うノッキングペインが特徴的所見です。尿検査で血尿があれば診断が確定できます。(肉眼的には血が混じっていないことも多いです)当院にも急性腰痛で受診された患者さんで検尿で潜血があり、体動困難のため救急車で総合病院に搬送したことばありました。

次に子宮由来の腰痛で、子宮内膜症と子宮筋腫が代表的です。子宮内膜症は20代から30代の女性に発症する月経障害で、子宮内膜の細胞が本来あってはならない場所に組織を作ってしまい、その血液が排出されずに、同じ位置に溜まってしまうため腰痛を引き起こします。月経量と生理期間が大幅に変わることもあるので注意が必要です。また子宮筋腫は子宮の筋肉が変化してできる良性の腫瘍で瘍が大型化することによって起こる月経量の増加、血の塊が混ざるなどの症状がでて、生理痛がひどくなる一連の症状の一つとして腰痛が生じることがあります。私が以前経験したのは子宮筋腫が大きくなり骨盤腔内神経根を圧迫して椎間板ヘルニア等による神経症状と同一の症状で、腰椎MRIを撮像して異常が見つからないため、念のため骨盤内のMRIを撮像したところ巨大な子宮筋腫が骨盤内を占めていました。婦人科で手術を受け,術前あった神経根症を伴う腰痛も消失しました。

最後に腹部大動脈瘤に伴う腰痛です。”死に至る腰痛があったとは!?”という特集が、昨年の「ためしてガッテン」で取り上げられましたが、年間に1万人以上が、亡くなっており、『腹部大動脈解離』、『腹部大動脈瘤』の二つの病気があります。腰椎(背骨)の前を縦に走る太い動脈が、腹部大動脈で、その血管内に裂け目ができて内部で大きく剥がれてしまう状態が「解離」、一部が大きく膨らんでコブのようになるのが「瘤」で、破裂寸前や炎症を起こした場合に痛みを感じ、横になって安静にしても痛みが変わらない腰痛が特長です。動脈瘤が大きくなると腹部中央に動脈の拍動を触れる場合もあります。いったん動脈瘤が破裂した時の腰痛は非常に激痛でショック症状を伴っていることも多く,救急車で搬送されることが多く、半数が死亡し、緊急手術による救命率は40−60%という非常に恐い疾患です。腹部大動脈瘤は事前に腹部エコーやCT、X線写真で発見される場合もあり、大きさ(直径)が5cm以上で手術適応と言われおり、事前に発見された場合には、血管外科などの専門医に相談する必要があります。

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。