第08回 特異的腰痛について

代表的疾患とその診断と治療-その3骨粗鬆症性脊椎骨折について-

骨粗鬆症とは、骨からカルシウムが出て行く骨吸収が骨を作る骨形成より優位になり、骨折しやすい状態をいいますが、最近では骨強度の低下も関係していると言われています。実際に背骨がつぶれることを骨粗鬆症性脊椎骨折といいます。よく(脊椎)圧迫骨折と言われるのは厳密には神経の圧迫のないものであり、神経圧迫のあるものを含めた場合には脊椎骨折と言っています。脊椎骨折は年齢とともに骨粗鬆症の方が増えますので、高齢者の約40%に存在するといわれています。脊椎骨折の新規発生患者数は年間30万~100万人といわれています。しかも、脊椎骨折を生じた方が、再骨折する確率は2年以内で約40%といわれています。特徴的な症状は腰痛ですが、必ずしも折れた場所が痛いとは限らず腰やお尻の痛みを訴える場合が多いです。また痛みの特徴は寝返りや起きようとしたときに最も痛く、起きて座ってしまったらそうでもなく、歩いて外来を受診する場合が多いので高齢の腰痛患者さんが来られたら骨折を念頭において調べることが早期発見の第一歩です。

最初に外来受診をした方にいままで圧迫骨折したことのない方であればX線写真で1箇所だけつぶれていればわかる場合もありますが、初回のX線検査でつぶれていない場合や何回か骨折したことのある方の場合はどれが新しい骨折か、わからないこともあります。脊椎骨折の早期診断にはMRI検査が最も有用です。骨粗鬆症の診断には骨密度検査があり、手や手首のX線撮影、踵の超音波で測定する方法もありますが、当院ではDEXAという器械で腰と太もものつけね(大腿骨頚部)の骨密度を測り若いときの70%未満の場合骨粗鬆症と診断します。(最近では骨密度が正常でも骨質が弱い骨粗鬆症もあり、鉄筋コンクリートに例えると、鉄筋にあたるコラーゲンに善玉と悪玉架橋があることもわかってきました)

最新のガイドラインではFRAXという診断ツールを使うと今後10年で骨折をおこす危険性がわかるので骨密度が70−80%の骨量減少の場合でもFRAX(フラックス)で15%以上であれば積極的に治療を開始することが推奨されており、当院でもDEXA,FRAXを使って骨粗鬆症の早期診断、早期治療を行っています。 脊椎骨折の治療は、痛み止め、骨粗鬆症の治療(内服薬や注射薬があり、重症度に応じて使用します)を開始するとともに、骨折した部位に応じてコルセットを作成します。コルセットは数日から1週間で完成しますのでそれまで自宅で安静にしていただきますが、痛みが強く動きがとれない場合は入院できる病院に紹介しています。コルセットは骨折が癒合するまでの約2−3ヶ月装着します。骨がつかないと癒合不全、偽関節といって寝たときには骨がワニの口のように開き、動いた時の痛みがとれなかったり、神経を圧迫して足の麻痺がでることがあり、手術が必要になることがあるので、できるだけそうならないようにするために、早期発見、早期治療が必要なのです。骨粗鬆症の治療は途中で中止すると効果は数ヶ月で元に戻ってしまいますので,継続治療が必要です。当院では患者さんの骨粗鬆症の状態を定期的に検査しながら治療を継続するようにしています。いわば長距離レースのようなものです。新しい骨粗鬆症の治療薬として、テリパラチドという副甲状腺ホルモンの注射薬があります。今までの骨粗鬆症治療薬が骨吸収といって骨からカルシウムがでていくのを抑制する作用だったのですが、この注射薬は骨形成といって骨を形成することができるので骨密度を増加する作用も今までの薬より高いといえます。毎日患者さんが自分で注射する方法と1週間に1回外来で注射する方法があります。当院では骨粗鬆症の重症度に応じて、患者さんと相談しながら治療する薬を選択しています。さらに昨年からヒト型モノクローナル抗体であるデノスマブ(商品名:プラリア)は発売されました。破骨細胞の形成・機能・生存に重要な役割を果たす蛋白質を特異的に阻害し、破骨細胞の形成を抑制することで骨吸収を抑制するもので、6カ月に1回野注射で骨密度を上昇させる作用をもっており、期待されています。

このように骨粗鬆症治療薬の選択肢が広がることは良いことなので私たち治療者側もますます個々の患者さんの骨粗鬆症の状態を把握して使い分ける必要があることを肝に銘じて治療にあたらねばなりません。

脊椎骨折の手術適応については、2011年よりBKP(バルーンカイフォプラスティ)という椎体形成術が保険適応となり保存的治療を行っても疼痛が改善しない場合に限って適応をみとめられており、研修をした施設に限って行われています。つぶれた骨に背中から穴をあけてバルーンで内部を膨らませてその中に骨セメントを注入する方法です。疼痛の改善効果は高いのですが、合併症として肺塞栓、セメントで固めた骨の上下の骨折が生じやすいことがあり、適応は専門医により慎重にされています。椎体の圧潰が高度であったり、骨がつかなかったりして脊髄を圧迫し麻痺が生じた場合や骨折当初から不安定な骨折と診断された場合には椎弓根スクリューというインスツルメント(金属)を使用した後方固定術が行われ、骨折した骨内にはバイオペックスという骨ペーストや人工骨を充填して金属の周囲には骨移植が行います。このような手術は侵襲が比較的大きいので、できるだけ手術にならないような適切治療を行うよう心がけています。

この記事を書いた人

とよた整形外科クリニック 理事長

豊田 耕一郎

山口大学医学部、山口大学大学院卒業後山口大学医学部附属病院、国立浜田医療センター、小野田市立病院、山口大学医学部助教、講師を経て山口県立総合医療センターで脊椎手術、リハビリ部長を兼任後、2012年4月からとよた整形外科クリニックを開院。
専門性を生かした腰痛、肩こりの診断、ブロック治療、理学療法士による運動療法、手術適応の判断を迅速に行うことをモットーとし、骨粗鬆症、エコーによる診断、運動器全般の治療に取り組んでいます。